JMARが20年以上支援してきた全日本空輸(ANA)様に、
社員意識調査の活用から人的資本経営の考え方まで、幅広くお聞きした特別インタビューです。
本日は、全日本空輸株式会社 人事部長 辻 浩平様にお話をうかがいました。
インタビュアー(ANA様調査担当)
株式会社日本能率協会総合研究所 経営・人材戦略研究部 部長
組織・人材戦略研究部 ダイバーシティ推進室長 主幹研究員
一般社団法人メンタルヘルス研究所 顧問
20年以上にわたり、企業の組織・人材戦略の支援、及び、エンゲージメント(従業員満足度)診断を中心とした組織課題の把握とKPI作成、施策提案に従事。
また、ダイバーシティ推進やストレスマネジメントに関する従業員意識調査や、リーダーのコミュニケーションスキル向上のための部下アンケートを使ったコーチング、メンター制度導入支援のサービスをなどを開発し、民間企業を中心に展開する。
経営学修士(MBA)、GCS認定コーチ、ポジティブ心理学プラクティショナー。
インタビュアー(ANA様調査担当)
株式会社日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 エンゲージメント推進室長
JMARは2002年からANA様の支援を開始し、すでに20年以上になります。
当初はESS調査(社員満足度調査)と呼んでおり、グループ会社にも対象範囲を広げつつ、毎年実施してきました。2014年には3つの調査(安全・CSR・ESS)を統合し、「ANA’s Way Survey」としてリニューアルし、その後もブラッシュアップを重ねつつ、現在に至っております。
調査の経緯について、教えていただけますか。
ANA当社の調査は「ANA’s Way Survey」と称していますが、外部には社員満足度ではなく、“意識調査”という言葉を用いています。
この「ANA’s Way Survey」は、満足か不満かを測っているのではなく、人財や組織など、ANAグループとしてのありたい姿がある中で、その実現に向けて現在の達成度を定点観測していくという位置づけとなっています。それは初回から変わっておりません。したがって、3つの調査を統合したあとも、それほど大きな立て付けの変更をせずに、現在に至っています。
ただし、航空業界の経営環境の大きな変化に伴い、設問の改廃や自由記述のテーマを変更するなど、細かな修正を行っています。
例えば2021年の調査はまさにコロナ禍の時期と重なりました。そのため、コロナ禍での働き方に対する意識に関する特別な設問を追加で設定しました。また、2023年度については、4月から経営ビジョンを刷新しましたので、経営ビジョンの理解浸透や行動化に関わる設問を設定しました。調査を継続していく中で、このような環境の変化を繰り返し経験してまいりましたが、基本的には経年比較を重視しながら修正を行い実施しています。
「ANA’s Way Survey」になってから、“経営指標”という位置づけの重視度が高まってきたようにも感じていますが、そのように流れが変わってきたという実感はありましたでしょうか。
ANA はい、その通りです。当社は「ANA’s Way」をトップに掲げ、その中にある5項目に紐付けて、この意識調査を設計しています。そのベースには、私たちの「らしさ」(パーパス)を表した「あんしん、あったか、あかるく元気!」があり、意識調査にてWayの5項目の体現度を検証しています。まさに、ANAグループの文化に関わるということで、非常に重要な調査と捉えています。
他社と比べましても、初回の調査から、結果のフィードバックには力を入れられてきたという印象がございます。継続的に「職場ごとのカルテ(職場単位でのフィードバック)」を作成し、各職場に調査結果をフィードバックされています。
一般的には、人事部主導で、人事制度などの人事部の施策に活かすという使い方の会社さんも多くある中で、ANA様は当初から現場・職場へのフィードバックを重視してこられました。その目的や想いをお聞かせください。
ANA社員一人一人、4万人以上のグループ社員が、業務時間の一定時間を割いて回答しているので、調査の結果をただ眺めるというレベルではなく、回答に協力してもらった社員にはきちんとフィードバックをすることが大変重要であると考えています。さらに、会社としても調査結果を踏まえたうえでアクションを実施するなど、社員の声が経営に届いているということを実感してもらいたいというのが、非常に大事にしているポイントです。
統合報告書や有価証券報告書に載せているのは、分析としては非常にマクロ的な全設問平均のような数値となっています。一方で、ANAグループには、グループ会社を含めて様々な仕事があり、業種や職場によって課題も異なります。そのため、“職場”というのを非常に重要な基本の単位と捉え、具体的なアクションにつなげていくようにしています。もちろん職場全体に共通するような話は、人事部等で会社全体として扱う案件になるのですが、やはり一番大事なのは職場の意見だというのが、ANAグループ全体で非常に強い想いです。
また、もう1つはスピードを重視していることもあります。職場単位でできるものについては、職場で率先してサイクルを回してもらうということを狙っています。逆にいうと分析に時間をかけることよりも、とにかく職場で早く動いてほしい、できるものについては準備が整ったら即実行してほしい、という想いがあります。いわゆる管理スパンを考えたときにも、ANAグループ4万人だと大き過ぎるということがありますので、職場単位で分析・アクションプランを打ち出していくというのが、管理スパンという意味でも非常に適切ではないか、と思っています。
調査結果を活用・展開するにあたり、推進体制についてもお聞かせいただけますか。
ANA推進体制としましては、私たち人事部が全体統括として事務局を担当していますが、各社や各部門に担当窓口を置いています。分析やアクションプランの策定は各組織で実施していますが、課題解決に向けて各担当間で意見交換をする場の設定なども行い、自分の職場だけでは出てこない、好事例の横展開を行っています。
職場とは少し別の話になりますが、職場が仮に“縦軸”だとすると、“横軸”で見ている専門部隊というのがあります。“安全”や“顧客満足”、”DEI(ダイバーシティ&インクルージョン・エクイティ)”などがそれにあたります。専門部隊はグループ全体や各組織において上記の浸透が行われているか、より細かく専門的な目で見る、という取り組みにもなっていますので、タテヨコの2軸で見ているということになります。
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