昨今、人的資本経営ということで、非財務情報としてエンゲージメントスコアを公開する会社様が非常に増えている中で、「どういうスコアを提示したらいいでしょうか」「どのように調査結果を記載すればいいでしょうか」など、弊社でもいろいろご質問を受けています。
ANA様の表現の仕方や開示の仕方も、統合報告書の中で少しずつ変わってきている部分はございますか。
ANA2023年は、「仕事のやりがい」「ANAグループへの誇り」と「総合スコア」の3つを開示しています。
3つ以外に、今後、記載していきたい内容・検討している内容はございますか。
ANAいろいろな会社が、現在試行錯誤の段階だと認識しています。エンゲージメントの高い社員の比率というような出し方をしている会社もありますが、当社の調査はカスタマイズしてANA独自の設問で実施しているので、他社との単純な比較は難しいと思っているところはあります。一方、これだけ人的資本経営というのが叫ばれていて、非財務情報開示が求められている中で、他社と比較したANAグループの立ち位置なども示していく必要もあると思っています。
いずれにしても、1つ言えるのは、社員意識調査は人的資本経営の有力なツールであるということです。
人材版伊藤レポートで「経営戦略と人事戦略の連動」といった話が注目されていますが、実際には十分取り組めてないという調査結果もあります。御社の場合はかなり経営指標と紐付けた調査構成になっているので、他社よりもより連動性があると感じています。御社独自にカスタマイズした調査を実施している背景には、そういった想いもあるのでしょうか。
ANAエンゲージメント、人的資本経営自体は、非財務情報も含めて近年の社会の要請という側面が強いと捉えています。当社は中途採用が多いので、毎月のように入社式を実施しており、そこには必ず社長が出席し、新入社員に毎回伝えている言葉があります。それはドラッカーの、「企業文化は戦略に勝る」という言葉です。裏を返せばそこを非常に重要視しているということになります。
ですから、統合報告書を見ていただければ、結果としてのスコアはもちろん載せているのですが、結局それにどういう意味があるのかということと、それに対してどういう打ち手を打つのかということ、その2点をセットで社員に伝えていきたい、というのがわれわれのストーリーです。やはりそういう意味で、経営戦略と人財戦略の連動というところを意識して進めています。
エンゲージメントの捉え方は、各社いろいろあると感じています。ANA様では、サーベイの中からエンゲージメント項目という位置付けで数問設定されていますが、ANA様としてのエンゲージメントの定義や解釈はありますか。
ANA一般的なことになりますが、エンゲージメントというのは、“働きやすさ”と、“働きがい”という2つの側面があると考えています。単純にエンゲージメントというと、いわゆる社員が会社に対して抱く愛着心や思い入れのように解釈をされていることもありますが、それはいわゆる“ロイヤリティ”に近く、一方通行の概念に聞こえます。当社が考えるエンゲージメントというのは一方通行ではなく、会社と社員の双方向であることを重視しており、会社と社員がお互いに尊重し、お互いの成長に貢献し合う、そういったことを称してエンゲージメントと捉えているということです。ここでのエンゲージメントという要素の中には、もちろん働きやすさの要因もかなり大きな割合を占めてはいるのですが、どちらかというと、こちらは居心地の良さのような感覚、いわゆる満足、不満足といった話にすり替わることもあります。データとしては確認していますが、読み取り方には注意が必要です。
労務管理に関する設問も確認はしていますが、統合報告書に開示しているのは、いわゆる“働きがい”という側面の従業員エンゲージメントとなっています。
働き方改革などを乗り越えて、“働きやすさ”のほうはある程度基盤が整ってきた中で、やはり“働きがい”をエンゲージメントとして捉えたいという会社も増えてきていると感じます。ただ、“働きがい”の捉え方は、会社によって少し異なると感じています。
ANA様もそうですが、「チームワーク」や「互いを認め合う」など、そういった要素も働きがいの一つに入れている会社もあります。
ANA働きやすさの側面でも働きがいの側面でも、職場が担っている部分は非常に大きいと感じていますので、すでに申し上げていますが、当社では職場単位での課題解決を大変重視しています。
以前から職場ごとの回答率を重視し、KPIとされてきました。
ANA参加率について、過去には100パーセントを目指して進めてまいりました。数年前まで、各職場で100パーセントを達成するための周知をきめ細かく行っていましたが、最近は積極的には行っておりません。行わない中でも、95.9パーセント程度の、かなり高い回答率が維持されています。やはり長年実施してきたことで調査が定着しており、すでに社員の中での認知度も非常に高いことが、高い回答率にもつながっている、と捉えています。
社員の皆様の関心度も高いのですね。それは、この調査が有効に活用されてきているという、社員の方の共通認識ができているからと言えますね。回答はしたものの、結果のフィードバックがない状況では、回答率も低迷してしまいます。良いサイクルが長年にわたり確立できているのだと改めて感じました。
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