昨今ではフリーツールを使用して、簡単な調査を自社内にて実施することも可能となっておりますが、ありがたいことに、長年当社に委託していただいております。その理由やメリットについて、お聞かせいただけますでしょうか。
ANA昨今、eラーニングなども比較的手軽にできるようになっていますので、Googleフォームを利用して自社内にて実施する、という場合もありますが、本サーベイについては継続して御社に依頼しています。すでに申し上げたように、職場を重視しているということから、職場ごとにカルテ(職場単位でのフィードバック)を作成し提供することが非常に重要ですが、大変手間がかかる部分でもあります。つまり労力の削減ということも、委託をしている理由の1つになっています。
また、我々の細かいニーズに柔軟に対応してもらう必要がある、ということも、委託を継続しているもう1つの理由となっています。経営環境が変化していく中で、本調査についても毎年検討し改変していますので、自前でやるよりも柔軟に対応いただけることも、委託している理由の1つです。カルテ(職場単位でのフィードバック)については職場の数も膨大ですし、実態に即して分析しようとすると、組織上は別である2つ以上の組織を1つの組織として確認したい、あるいは1つの組織を2つ以上に分けて確認したいなど、細かいニーズもあがってまいります。そういうところにも丁寧に対応いただけていると認識をしています。
組織単位の算出については、部単位、課単位などの単純な単位だけではなく、チーム単位や某空港全体など、いろいろな活動単位で作成させていただいています。逆に汎用的な調査システムを利用すると、調査項目やアウトプットに柔軟性が持てず、活用が進まない可能性もありますね。
ANA融通が利かないと、職場で使ってもらえなくなる可能性はあります。
本筋とは少し外れますが、例えばコロナの時期には、一部の調査を自社内で実施したい、といったお願いをさせていただきました。その際にも状況を共有したうえで、心快く請けていただいたことで、非常に助かりました。御社はその道のプロの集団であると伺っていますから、調査の実施や分析において、いろいろなアドバイスをいただけると認識しています。
ですので、先ほどは従業員エンゲージメントの話を申し上げましたが、別の意味のエンゲージメント、いわゆる顧客エンゲージメントとして、御社は我々にとって非常に高いと思っています。
ありがとうございます。逆に御社のほうから当社に対してご要望やこういったサービスがあると助かるといったことはございますか。
ANA1つは先程申し上げた他社比較です。他社と比較する場合、汎用的な項目を使う必要があると思いますので、社内で検討を進めていく必要があると思っています。
当社には他社比較のデータベースがありますので、御社についても何年か前までは、他社比較をさせていただいておりました。ただ御社の結果は他社より高く、あまり参考にはならない、ということがありました。一方、他社よりも低い項目については、ANA様内でかなり課題視されていたと伺いました。
ANAまた、もう1つの要望としては、ESG全般の中で人材の占めるウェイトが非常に高くなってきていますので、そういう側面での助言や一緒にできることがあればぜひ一緒に取り組みたい、というふうに思っています。今後の展開としては経営に近い数字データ、例えば顧客満足と社員満足の関係、利益や業績の関係、生産性との関係など、様々なテーマについて分析を進めていくつもりです。外向きに開示するという要素と、実質的に役立つ要素の両面で、どんどん進化させていきたいと考えています。
非財務情報の開示は、ストーリーとどう紐付いてるのか、ということが重要になります。結果のみを開示しているケースも多くありますが、たとえばエンゲージメントの総合スコアを出したとしても、達成するための道筋やプロセス指標がなければ、本当に達成できるのか分からない部分もあります。
ANAまずは開示ですが、投資家が重視するのは過年度のトラックレコードです。改善履歴など、過去実績を求めている投資家は多いのですが、開示している会社は多くありません。まだ評価の軸が定まっているわけではありませんので、まずは開示を重視しているようにも思います。
ANA様は本当に様々な取り組みを実施されていて、私共のお付き合いしているクライアント様の中でも先進的に現場を巻き込まれています。
今後、調査結果を使いながら、社員のエンゲージメントを高めるための課題や今後の展望を簡単に教えていただけますか。
ANAすでに申し上げたように、当社では2つの要素、働きがいと働きやすさ、特に働きがいに着目ししています。その中で、若年層を中心に重要なテーマとなっているのがキャリアです。キャリアに関する設問はサーベイの中にもあるのですが、「キャリアが描けない」という声が若年層を中心に多くあがっています。
一方、会社としては「キャリアは自分で決めるものだ」というメッセージを送っており、いろいろな制度やサポートを用意しています。社員には、会社の制度等を積極的に活用し、自立的に自分のキャリアを伸ばしていってもらうことを目指しています。ですので、エンゲージメントの中の働きがいを考える上で、今会社として重視しているのは、キャリアであるといえます。
人事部としては、さまざまな選択肢を提供し、場を作るということになるでしょうか。
ANAそうなりますね。研修も実施しますが、並行して実施しているのが公募制度です。社内でやりたいこと(経験してみたい職場)について、自分で手を挙げられる制度を提供しています。また、多くの人はキャリアについて「どこの部署に所属したか」と捉えていますが、実際には「どこにいたか」ではなく、「何をしたか」であると伝えています。現在は、トライアルとして社内兼業を公募の一環として実施しています。完全に異動することは社員の負担も大きいので、週1日を社内兼業に充てる制度となっています。週1日の20パーセントだけ、行きたい部署に行き、そちらの部署の業務を行い、普段は本来所属している部署の仕事を行う、というようなハイブリッドの制度です。
なるほど、職種が多岐に渡って規模の大きいANAグループで、ハイブリッドな働き方が実現できたら素晴らしいですね。
本日はありがとうございました。
社名 | 全日本空輸株式会社 |
---|---|
発足 | 2012年4月2日 |
資本金 | 25,000百万円 |
従業員数 | 12,803名(2023年3月31日現在) |
主な事業内容 |
|
インタビューご回答者:上席執行役員 人事部長 辻 浩平 様 (肩書は2024年2月時点)
©2024 JMA Research Institute Inc.