インタビュー
JMARの考えるエンゲージメントについて【3】(全3回)

「なぜ今、従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)が企業に必要なのか?」
「日本の雇用特性を踏まえて、エンゲージメントをどう考えるべきか?」

本日は、(株)日本能率協会総合研究所の組織・人材戦略部の部長・深代氏と主任研究員・前島氏にお話をおうかがいしたいと思います。

(インタビュアー:マーケティングサポート株式会社 西里)


従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)を外部委託するメリットとは?

調査をするにあたり、最初から、結果をどう活かすかというところまで考えてから取り組む企業もあるとは思いますが、多くが結果をどう生かしていくか分からないまま、とりあえず調査をしてみるという企業が、多いのではという印象を受けています。

前島そうですね。上場企業の多くは、従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)を実施していますが、社外に依頼している比率は約3割にとどまっているというデータもあります。

そういった会社はどうしているかというと、社内の人事部や総務部の方たちが、自分たちで調査を設計、質問項目も設計し、社内のシステムで調査をし、独自で集計しています。その場合、とても人的リソースが割かれます。
「調査以外の仕事ができなくなってしまう」「とりあえず数値の集計はするけれど、専門的な統計分析(アナリティクス)のようなことをする余裕がない」ということから、弊社のような専門機関へご依頼をいただくことも多いです。

自社内でやると、一見コストは抑えられているようですが、その方たちが動く時間(人件費)が全部なくなると考えると、外部専門機関を活用するのが、コスト削減や、より効果のある施策につながるという考え方ですね。

前島そうです。社内で実施されているところの悩みが、大きく2つあるようです。お聞きしていると、携わっている方が調査関連以外の仕事ができなくなるというコストの部分と、慣れない集計で手がいっぱいになってしまい、「『何が問題で、これからどうしていけばいいのか』という分析までは手が回らない」という部分です。その点が、外部専門機関を活用するメリットではないかと思います。

深代併せて、社内で回答者が特定できる形で実施すると、回答結果に忖度が発生する可能性があります。例えば弊社のような第三者の客観的なデータと比較して、上司に対しての従業員の評価が高くなるということが代表的です。そうなると調査結果の信頼性が疑われます。
実際、そうした社内実施による調査結果バイアスについては、ESG評価機関などは理解しています。そのため社内で行っているよりも、第三者に依頼していることを高く評価するESG評価機関もあるのです。
やはり投資家は、「社内の人間がお手盛りで取得したデータは、本当に信用できるのか」というふうに見るわけですから、そこが大きな違いです。

ありがとうございます。
御社では、他社比較や自由記述の分析をすることも強みとしておうかがいしております。

前島基本的には定量データを、弊社で同様の調査を実施した他社全体のデータ(あるいは業種や規模によって抽出したデータ)と同じ基準で比較します。
多くの会社が弊社の基本項目(70問)を使用しているため、現在では約500社の直近3年間の最新データとの比較が可能です。具体的には報告書の中で、「あなたの会社は他社の平均値と比較してここが低いので課題としてはどうか?」というような指摘をします。

自由記述については、テキストマイニングを使うこともありますし、研究員が一件一件読みこむこともあります。個人的には、自由記述はお会社ごとに書きぶりが違っているので、読み込んでいくと企業風土が明確になる点がとても興味深いです。

例えば、経営層の経営方針について、自分が経営陣の立場に立って「もっと自分はこういうチャレンジがしたいので、会社はこうしていくべきだ」「もっとこういう方向にチャレンジしていくべきだ」というような書き方をしている従業員の方たちがいる会社がある一方、全く経営方針に関心を示さない(自由記述に書かれない)、受け身になって不満のみを書き連ねる従業員の方が多い会社もあります。

会社のことを「自分ごと」として捉えているかどうか、という点は数値のみで客観視し難く、専門性のある研究員の長年のノウハウや勘と想像力に頼るところも多分にあります。もちろん数値の客観的なデータを元に分析は進めるのですが、その肉付けとして自由記述の分析は有効ではないかと考えております。
従業員の方の生の声に興味がある会社は多く、生の声に潜む重要な課題・仮説をあぶり出す分析は、経営報告の場などで感謝のお声をいただくことが多いです。

人的資本リスクについて

深代今後、特に上場企業は、持続的に価値を高めていくためにも、人的資本としての従業員に関するリスクを、よりしっかりと把握していく必要があります。

従業員に関するリスクには、例えば、「この会社の存在意義(パーパス)や掲げるビジョンに共感する従業員がどれだけいるか」、「次世代の経営を任せられる人が、どのぐらい育っているか」とか「急な退職者増により、お客様に迷惑をかけ、事業の継続性が保たれるか」といった点。
また、お客様志向の欠如、品質意識の欠如、コンプライアンス違反、ハラスメントや差別などが起こりやすい組織文化になっていないかといった点。
また、部署別、年代別の、仕事のやりがい度合いや疲弊の度合い。
さらに、日本型雇用に特徴的な「転職予備軍」や、「定年までぶらさがる安住層」が従業員の何割存在するのか、などです。

こうした人的な課題は、経営層が存在意義やビジョンを掲げ、経営戦略を実行していく際の、<実行力>に関わってきます。ビジョンに共感できず、働きがいがなく、優秀な人材が流出し、ぶらさがり人材ばかりが残った会社では、戦略の<実行力>があがらない可能性が高くなります。投資家目線でみれば、そうした企業の株は早々に手放し、優れた長期戦略をもち、かつ従業員に関するリスクの少ない株を買いたいと思うことでしょう。

こうした人的資本の状況を分析し、どこでどういう問題が起こっているのか、何が課題となるのか、といった点の仮説づくりや優先順位化までも、弊社の調査です。

働きがいやエンゲージメントに影響する真の課題を分析せず、「偏差値」や「トップ&ワースト10」が示されるだけでは、結果や数字だけが独り歩きして、本質的な課題解決につながらないと弊社は考えています。
例えば、「会社全体の一体感がない」という数値の結果が出た際に、人事部門が懸命にそのデータだけを表面的に受け止めて、「一体感を醸成するために管理者研修をしてみよう」等の試行錯誤が発生します。これが結果の独り歩き現象です。
しかし、弊社では、まず真の課題をファクトとして掴むことが大切だと考えています。そこで「一体感がない状態を生む背景となる要素は何か」を究明していくわけです。
例えば、

  • トップから会社の方向が十分発信されていないためなのか。
  • トップは十分発信しているけれども、管理者層が消化しきれていないためなのか。
  • それとも管理者層はきちんとしているけれども、不満層が多くて疲弊しているために一体感がないのか。

これら3つは、それぞれ対策案が違ってきます。
分析によってこうした仮説を整理していくのが、弊社の仕事であり、その点が大きな違いです。

なるほど。お話をうかがっていると、決してコスト的にもデメリットがあるわけではないのかなという感覚になりました。

前島そうですね。一応、社内向けに「今回の自社のエンゲージメントサーベイの結果は何点です」と取りあえず示すことだけが目的であれば、どのような調査会社でもいいのではという気がします。
ただ後々の会社のことを踏まえると、調査をするだけで会社が健康体になるわけではないため、せっかく調査にかけたお金や時間が無駄になってしまうのでは、と危惧しています。

そうですね。根本的な改善には至っていないということですね。

深代「調査後の改善サポート」として、例えば、「経営的な意志決定が必要な○○や△△の課題は、中期経営計画に連動させて、こういうステップを踏んで進めよう」というロードマップ案を一緒に策定させていただくケースもあります。また、計画策定支援だけでなく、組織開発を推進担当される部門に、アドバイザリーということで、定期的なアドバイスを何度かするというサービスを行うこともいたします。

なるほど。調査の範囲を超えて、ある程度、経営部分に落とし込むコンサルティングサービスも、御社では対応できるということですね?

深代そうです。

これからの従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)のあり方

最後に、御社では、今後どのような企業への展開とか、このサービスを発展させていくなどの展望などがございましたら教えてください。

深代人的資本開示の流れの中で、「当社の経営戦略実現にとっての人的資本リスクは何か?」という点をきちんと把握し、その対策の実効性を高めないまま会社は勝ち残れるのか、ということが今問われていると思います。
<従業員が当社の中で働く経験価値=従業員経験>を「働きがい」や「エンゲージメント」という観点から定量的に把握する調査サービスは、今までは上場企業でも社内内製化が大半でしたが、近年専門的な第三者に依頼したいという引き合いが増えてきました。
お話ししたように、日本企業のエンゲージメントは、日本型雇用を前提として把握していくことが大切です。弊社ではそうした観点に立って、日本企業の人的資本戦略への支援を、より追求していきたいと考えています。

また、人的資本の項目としてまだ着目されていない要素として、「自社商品・サービスについての品質意識の高低」や「安全意識の高低」などがあります。例えば製造業だと、品質意識が下がって品質不正が発生する。安全意識が下がって事故が起こる。
これらの要素は、製造業やサービス業の競争力維持向上、労働災害リスクの低下などに寄与するもので、一朝一夕には築くことのできない人的資本ではないかと考えています。
従って、日本企業の経営特性を踏まえ、その会社にとってコアとなる、大きなリスク因子のところを深堀りし、従業員意識を把握させていただいて、その意識をどう改善させていくのかという側面でもお役立ちできればと思います。

コンプライアンスというテーマも同様に、「働きがい」や「エンゲージメント」が低下すると、コンプライアンス問題が起こり易くなります。こうしたメカニズムの中で、エンゲージメントとコンプライアンスをどう捉え、経営として対策していくかということも、前島さんのテーマですね。

前島そうですね。

深代そこが企業の根本課題だと弊社は考えているので、そういった点に対して解決できるような貢献をしていきたいです。

ありがとうございました。とても勉強になりました。

前島深代ありがとうございました。

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