当社は、サステナブルインフラ企業として、現存不動産の新たな価値創造、遊休地を活用したクリーンエネルギーの創出を軸とした事業を推進しています。事業を通じて地域や社会貢献を果たし、日本の将来に豊かさをもたらすことを使命としています。
インタビューにお答えいただいた方
筆頭独立社外取締役 藤田 哲也 氏
貴社会長のスコットキャロンさんは、金融庁の「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」のメンバーでもありましたし、貴社はガバナンスに関して、他の会社に比べて非常に気を使っていらっしゃるのではないかと思うのですが。
その通りです。いちご株式会社は、不動産の有効活用とクリ-ンエネルギーの創出を軸に事業を行っておりますが、一方、グループ内には上場J-REIT、インフラ投資法人等の運用業務を行う投資顧問会社も持つなど、投資家の立場に立ったガバナンスにも深く関わっています。
私も筆頭独立社外取締役として10年間、当社を見続けてきていますが、当社はガバナンスに関しては人一倍厳格であるべきと感じています。それは社内取締役の方々も独立社外取締役の方々も、共通している考え方だと思います。さらに考えを進めた言い方をするならば、日本のコーポレートガバナンスを強くし、広めていきたいという思いがあります。
貴社では、実効性評価を「筆頭独立社外取締役」が主導で実施しているとお聞きしましたが、そのあたりの経緯などについて教えてください。
当初は特段の意図はなかったと思います。私が独立社外取締役の中で最も長い就任期間だったから役割を担ってもらおうかというのが正直なところだと思います。しかし、今から思うと、この役割を引き受けたことは非常によかったと考えています。
それには2つ理由があります。1つは、筆頭独立社外取締役として、「取締役会がどうあるべきか」ということについて俯瞰的に考える機会を持つことができたこと。もう一つは、実効性評価を社内側の論理によって、いわゆる“お手盛り評価”とさせないことです。
実効性評価アンケート実施にあたり、前回の実効性評価で課題となったことについて「課題に対する取り組み状況」という書面を筆頭独立社外取締役の名前で配付しており、今となっては、「実効性評価=筆頭独立社外取締役の役割」という構図が定着しています。
また、当社では他社に先駆け、すでに取締役会の実効性の評価に加え、監査委員会においても実効性評価を実施しております。
CGコードに規定はあるものの、日本ではまだあまり浸透していない筆頭独立社外取締役ですが、貴社のように明確な役割のもとで、独立社外取締役のコミットメントを引き出している点は、非常に先駆的であるといえます。
今回、実効性評価を外部機関の力を借りて実施しようと考えた背景について教えてください。
CGコードができ、実効性評価が始まった当初から、当社が独自に構築・実施してきた評価プロセスを、いずれは外部機関から見てもらおうという計画がありました。
ただし、丸投げで委託することはまったく考えていませんでした。ゼロベースから作り上げる実効性評価ではなく、当社の持つ既存の評価フレームを活かしながら診断してもらうことにポイントを置いていました。
実効性評価は自己評価することが大事で、当社の方法論がある程度軌道に乗った段階で、当社の評価プロセスが妥当なのかどうかについて、外部の意見を取り入れてみようということになり、2019年の実効性評価結果の中で「当初の計画どおり、外部専門家による実効性評価プロセスのアセスメントを実施」という文言を明記し、2020年に外部機関の活用に踏み切ったわけです。
実効性評価を取締役会の機能向上にうまく活かそうということでしょうか?
そのとおりです。実効性評価を通じて取締役会の課題を明確にしていくことは、煎じ詰めれば、企業価値向上や株主価値向上をどう実現していくかを考えることにつながっていきます。最近は株主からの関心も高く、今年(2020年)5月の株主総会でも実効性評価に関するご質問をいただきましたが、ちょうど今回、外部機関のチェックを受けていたこともあり、当社がガバナンスを大事にしていることを、自信をもって答えることができました。
取締役会というデリケートな場に、外部機関のアドバイスを入れるということについて、取締役会メンバーの抵抗感のようなものはありませんでしたか。
それはまったくありません。さきほどお話ししましたとおり、当社はガバナンスについては厳格であるべきという共通認識があることに加え、新しいことへの取り組みに対しても歓迎するムードがあるので、むしろ前向きに捉えていると思います。
また、社内だけで実効性評価を3年も続けていると、アンケート結果として出てくる課題が毎年同じようなものとなり、取締役会を支えてくれている事務局メンバーにとっても行き詰まり感が見られていました。マンネリ化を防ぐという意味でも、外部機関のアドバイスを受けることはとてもいい機会になったと思っています。
実際、今回、外部機関のアドバイスを受けながら実効性評価を進めてみましたが、どのような印象をお持ちになりましたか?
非常によかったと思います。外部機関によっても得意・不得意はあるのでしょうが、私たちにないノウハウや知見を提供いただいたと思います。例えば、アンケートを作る段階では、すでに役割を終えた設問を削除するための基準を提供いただいたり、アンケート分析の段階では、当社の分析では足りていない部分を補強いただいたりしました。
今後の外部機関の活用の仕方については、どのようにお考えですか?
まずは信頼できるパートナーを選定することにあると思います。今回の場合、当社がこれまで実施してきた実効性評価の方法をベースとしながら、さらには当社の企業文化、ガバナンスを十分理解頂いた上で、アンケート内容や分析内容を検討いただいたので、より良い成果をご提供いただけたと考えております。
また、外部機関の活用全般については、企業によって考え方は異なるかと思います。当社の場合は、さきほども触れましたが、実効性評価はきちんと自己評価することにあると考えています。自己評価を基本としながら、社内で続けることによる弊害(=マンネリ化)を防ぐため、数年おきに外部のチェックを受けるのが現実的な対応になるのではないかと考えています。
最後に、よりよい実効性評価の実施に向けてお気づきの点などございましたらお願いします。
取締役会の機能をより高度化するための一つの手段として、実効性評価を活用することができると考えています。これまでの日本の現状は、独立社外取締役の比率が3分の1以上となっているのかなど、形式的な条件を満たすことに焦点があたってきましたが、明らかに潮目は変わり、取締役会が株主の付託に応え、経営を監督・サポートし、企業価値向上に資する働きをしているのかという「実質」の部分が問われています。その取締役会の働きぶりを明らかにし、様々なステークホルダーに公表・説明していくツールとして、実効性評価が位置づけられるのではないかと考えています。
取締役会は、その存在だけで力を発揮することはできず、私たちを支えてくれる取締役会事務局をはじめ、執行側の各部門の協力なしには成り立ちません。実効性評価一つ実施するにしても、取締役会事務局がブレーンとして役割を果たしてくれることが期待されます。
そうした中で、ご質問いただいた「よりよい実効性評価の実施」について言えば、取締役会事務局のレベルをあげていく必要があると考えています。そのためには、数年に一度でも外部機関からのアドバイスをもらうことを通じて、事務局自身が多くを学び、新たな気づきやノウハウ、知見を自社のものとして吸収していくということが必要なのではないかと考えています。実際、事務局メンバーは、貴社との打合せの中で言及される他社事例などが貴重な情報収集の機会となっていたようです。
このたびは、インタビューにご対応いただき、誠にありがとうございました。
インタビューの中にもありましたとおり、同社取締役会は「ガバナンスの何たるか」を知悉しており、そうしたお客様の実効性評価をご支援できたことは非常に幸運でした。
また、同社の場合、今回インタビューにお答えいただいた筆頭独立社外取締役の藤田様の存在が非常に大きいと感じました。アンケートの設計及び分析の打合せいずれにも必ず立ち会っていただきました。中でも圧倒されたのは、弊社から提供した資料について、すべて目を通していらっしゃることでした。業務完了にあたって提出した「所感」についても、事務局の方からいただいたお返事は、「藤田も内容をすべて確認し、了解いたしました」というものでした。取締役会事務局のことはもちろん頼りにしているのですが、「最終的には筆頭独立社外取締役である自分自身が仕切らなければならない」という強い気持ちが働いていると思わざるを得ません。独立社外取締役がこれほどまでに深くコミットしていただける同社には、コミットしたくなるだけの魅力があるのだと感じた次第です。
(インタビュー担当:岡崎)
社名 | いちご株式会社 |
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機関設計 | 指名委員会等設置会社 |
設立 | 2000年3月17日 |
資本金 | 26,885百万円(2020年2月末現在) |
社員数 | 単体:110名 連結:323名(2020年2月末現在) |
主な事業内容 |
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インタビューご回答者:筆頭独立社外取締役 藤田哲也氏(肩書は2020年7月時点)
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