日本能率協会総合研究所 マネジメント&マーケティング研究事業本部

コラム
コロナ禍におけるコミュニケーションの工夫
~テレワーク上の取組事例を踏まえて~

2022.09.15

馬場 裕子

株式会社日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 ダイバーシティ推進室長 主幹研究員 /一般社団法人メンタルヘルス研究所 顧問

20年以上にわたり、企業の組織・人材戦略の支援、及び、エンゲージメント(従業員満足度)診断を中心とした組織課題の把握とKPI作成、施策提案に従事。
また、ダイバーシティ推進やストレスマネジメントに関する従業員意識調査や、リーダーのコミュニケーションスキル向上のための部下アンケートを使ったコーチング、メンター制度導入支援のサービスをなどを開発し、民間企業を中心に展開する。
経営学修士(MBA)、GCS認定コーチ、ポジティブ心理学プラクティショナー。

1.コロナ禍が職場に与えた影響

新型コロナウィルスの影響で、テレワークの導入が一気に進み、内閣府の調査によると、この1年ほどは全国で約3割の実施率で推移している(東京23区だと5割を超えている)。テレワーク実施におけるデメリットや課題は解消しつつあるが、先述の調査において、「テレワークで不便な点」では、「社内での気軽な相談・報告が困難」「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」の選択率が3割を超え上位となっており、2年前と比べても大きな変化が見られない。(図表1参照)。
当社が従業員向けの意識調査を実施した中でも、「困ったときに上司に気軽な相談がしづらい」「雑談がなく、孤独感が増した」などの職場のコミュニケーションの課題が明らかになるケースも少なくない。もちろん、通勤の負荷が減るなど、テレワークにおけるメリットもあるが、多くの会社でコミュニケーションに課題を抱えているため、今回は“コロナ禍における職場のコミュニケーションの工夫”について、具体例を交えて考えてみたい。

【図表1】出典:第5回新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

2.自職場での実践例

私自身、6人ほどの室のリーダーをしているが、2020年の緊急事態宣言が出た際、テレワーク主体での働き方がうまくいくかどうか、手探りの状態であった。まずはウェブ上でチャットのチームを作り、朝の挨拶から始めるようにした。「おはようございます。本日はいい天気で気持ちがいいですね。」といった何気ない挨拶から始まり、「今日の午後は打合せ続きです。」というように、コミュニケーションを取りやすい時間帯を共有するなど、ソフトコミュニケーションを心掛けた。メンバーも少しずつ、今の気持ちやちょっとした出来事などをチームのチャットに挙げてくれるようになり、時にはプライベートなネタで盛り上がることもあった。短いチャットでのコミュニケーションにより、そばにいなくてもメンバーの様子が伝わるようになり、「職場のみんなとつながっている」という安心感を得るのに役立っていると感じている。

また、次に活用したのが、定例会議の工夫である。今まで、定例の室会議は月1回程度だったが、コロナ禍になってからは、週1回、定期的に開催することにした。定例会議というと、進捗確認や連絡事項が主となることも多いが、オンライン会議なので、メンバーの心身の状態を把握することにも心掛け、会議の冒頭では、「今日の気分は10点満点で何点か、またその理由」を1人ずつ話してもらうこととした。そうすると、画面越しではあまり読み取れないメンバーの心身の健康度が分かりやすくなり、また、毎週1回実施することで、定点観測ができるようになった。出社が当たり前の状況であれば、行動や表情、声などから心身の健康状態を読み取ることがある程度はできるが、テレワークが増えると、メンバーの微細な変化を知りえるのが難しくなり、ケアが遅れてしまうリスクがある。したがって、あえて言葉に出して、心の状態を見える化(点数化)することは、メンバー同士の助け合いにもつながり、効果的である。

3つめに実施したのは、失われた「雑談」の時間を取り戻す工夫である。今まで、立ち話程度の雑談から情報共有やアイディア出しにつながっていたケースも少なくなかったが、コロナ禍においてはその時間が失われていった。オンラインであったとしても会議を招集してブレインストーミングをし、アイディア出しをすることもあるが、会議を招集するほどでもないふとした疑問や懸念点を話す場が不足していることに危機感を感じた。そこで、定例会議の最後に「雑談の時間」を設けて、素朴な疑問を投げかけて短時間で議論することを行った。その結果、自分の考えだけで完結してしまっていたことでも、他のメンバーのアイディアをもらうことで、視野が広がるケースが多々見られた。出社が前提であれば、自然発生的にできていた雑談でも、テレワークが増えると、あえてそのような時間を設けることが重要である。

3.コロナ禍での職場のコミュニケーションにおいて重要なポイント

2022年9月の現時点では、行動制限もなくなり、一部の企業では、テレワーク推進の運用を見直す動きもみられ始めた。しかし、経済産業省の提唱する「人的資本経営」においても、「時間や場所にとらわれない働き方」が重要な人事戦略の要素と明確に表現されており、“テレワーク”という働き方の選択肢をなくしては、社員に指示されない企業となってしまうだろう。IT技術を駆使し、仮想職場を作り、リアルと近い職場を実現させるといった方法もあるが、コストをかけずに簡単に今すぐできるテレワークにおけるコミュニケーションのポイントを、下記の5つに整理してみた。

1つ目は、職場で朝やランチ時間等に行われてきたような日常のコミュニケーションを、オンライン上での対話(チャット等)においても遜色なくできるような状況を作ることである。私の場合は、毎日、チャットでの挨拶を欠かさないことと、時にはプライベートなことを話題にすることを実践しているが、顔を合わせなくても、職場メンバーとのつながりを感じられるオンライン上での効果的なコミュニケーション方法を工夫し、実践することが重要である。

2つ目は、短時間でいいので、定期的に職場メンバーが顔を合わせるオンライン会議を設定することである。なお、コロナ以前にリアルで実施していたときよりも、頻度を上げることがポイントである。毎日、朝礼や夕礼をやっている企業もあるが、少なくとも週に1回程度はカメラをオンにして顔を合わせ、職場メンバー同士の様子をうかがう機会を持つのも、今の時代だからこそ、ますます重要になっているのではないだろうか。

3つ目は、心身の健康状態を見える化する工夫である。定例会議で各人が「現在の気分」を話すのもアイスブレークになり有効であるが、グループチャットで今日の気分を天気マークで示すなど、楽しみながら取り組める工夫をお勧めする。このポイントは、定期的に実施することであり、変化をみることも重要である。

4つ目は、リアルのコミュニケーションと比べて、手薄になる部分をオンラインで補う方法を考えて、実践していくことである。先の例は「雑談」であったが、他にも、新人や異動してきた仲間が入ってきたときの工夫なども考えられる。オンラインでつないだままの状態でそれぞれが仕事を進め、質問したいときや話しかけたいときは気軽に話しかけられるようにしておくという例もある。

5つ目は、コミュニケーションのルールを職場で明確に決めておくことである。例えば、勤務時間外にチャットしないこと、連絡が取れない場合は、チャットのステータスを「連絡不可」としておくこと、などである。リアルでないコミュニケーションであるだけに、誤解やトラブルも起きやすいため、あらかじめルールを決めておくことが重要となっている。

ここに示した5つのポイントは、テレワークでなくても職場のコミュニケーションの重要なポイントであり、「職場での心理的安全性をどう担保するか」の工夫とも言い換えられる。コミュニケーションの手段が多様化する中、「どうしたら職場メンバーとのつながりを感じられるか」「どうしたらもっと楽しくコミュニケーションできるか」を突き詰め、トライアンドエラーで実践していくことが重要であると思われる。

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