人的資本経営における「従業員エンゲージメント」の活用

2023.07.11

馬場 裕子

株式会社日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 ダイバーシティ推進室長 主幹研究員 /一般社団法人メンタルヘルス研究所 顧問

20年以上にわたり、企業の組織・人材戦略の支援、及び、エンゲージメント(従業員満足度)診断を中心とした組織課題の把握とKPI作成、施策提案に従事。
また、ダイバーシティ推進やストレスマネジメントに関する従業員意識調査や、リーダーのコミュニケーションスキル向上のための部下アンケートを使ったコーチング、メンター制度導入支援のサービスをなどを開発し、民間企業を中心に展開する。
経営学修士(MBA)、GCS認定コーチ、ポジティブ心理学プラクティショナー。

2020年9月に「人材版伊藤レポート」が公表されて以来、企業経営や人事に携わる方々からは、「人的資本経営」というキーワードがよく聞かれるようになっている。

経済産業省は、“人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方”と定義し、その考え方を広めようとしている。日本企業は海外に比べて人への投資を含む無形資産投資に出遅れたため、急いで国が提唱するようになったという経緯もあると言われている。

企業においては、有価証券報告書に人的資本情報の記載が求められるようになったこともあり、人的資本経営に対する関心の高まりとともに、情報開示に向けた動きが加速している。2022年5月に日本能率協会グループ3社が共同で行った「サステナビリティ経営課題実態調査」では、自社における「従業員エンゲージメントの状況」の情報開示の重要度について、以前と比べてどのように変化しているかを調査した結果、「重視度は変わらない」という企業も3分の1程度いる中、6割近くが「以前よりも重視度が高まっている」と回答しており、重視度はますます高まっていくと考えられる。(図1参照)

人的資本経営を推進する中で、重要なファクターの1つが「従業員エンゲージメント」である。従業員エンゲージメントの向上は、企業業績の向上だけでなく、離職率の低下・経営ビジョンの浸透率向上・イノベーションを生む企業風土の促進など、幅広い効果をもたらすことが証明されているためである。また、企業が公表している統合報告書やサステナビリティレポートにおいて、人材戦略関係での開示情報では、「ダイバーシティ(女性管理職比率など)」に次いで、「従業員エンゲージメント」が多い傾向が見られる。

企業経営においては、従業員エンゲージメントスコアを測定すれば、計画・実行・評価・改善といったいわゆるPDCAサイクルにのせてマネジメントすることが可能になるともいえる。つまり、従業員エンゲージメントが見える化されることにより、目標値が設定され、取り組みの成果が把握できるのである。このような背景から、昨今、当社の「エンゲージメントサーベイ」への問い合わせが増えている。「エンゲージメントサーベイ」では、結果指標として、「エンゲージメントが高いか低いか」という点だけでなく、従業員エンゲージメントを高めるための重要なファクターや阻害要因などが明確化される。企業が競争力を高め、持続的な経営を推進するためには、人材戦略において、企業独自の目標値(KPI)も求められ、普遍的ではなく、独自性の高い指標を検討する必要もある。

JMARの「エンゲージメントサーベイ」では、①普遍性の高い(他社と比較した自社の立ち位置が分かる)KPIと②自社独自のKPIの両方の設定が可能となっている。「人材版伊藤レポート」においても、経営戦略と人材戦略の連動が重要視されており、自社の経営戦略推進のために、“どんな人材や組織のKPIが必要か”を検討することが求められている。

人的資本経営ひいてはサステナビリティ経営推進に向け、自社オリジナルのKPIや課題を見つけるために「エンゲージメントサーベイ」を見直してみてはいかがだろうか。

図1

情報開示の重要度の変化/従業員エンゲージメントの状況

出典:サステナビリティ経営課題実態調査2022」(国内主要企業対象)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000080217.html

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