取締役会の実効性向上のマネジメント構築②
社外取締役の一層の活躍を支える 取締役会事務局の役割

2021.06.23

岡崎 裕

一般社団法人日本能率協会において、役員研修及び経営者候補の選抜研修などに長年携わる。研修で培った多くの企業役員とのつながりを活かし、実効性評価等の調査業務に従事。2018年より現職。

<ポイント>
  • 取締役会事務局は、社外取締役に対する満足度が高く、有益な助言が得られているなど、社外取締役がいることによるメリットを強く感じている。
  • しかし、社外取締役による株主との対話など、活躍の場を設える余地は十分にある。
  • 社外取締役が一層活躍するために、それぞれの取締役が持つ強みの整理(スキルマトリクス)や社外取締役への継続的な情報提供など、地道に取り組む必要がある。

1.取締役会事務局は社外取締役がいることによるメリットを強く感じている

コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」と表記)の後押しもあり、上場企業の間ではかなり普及してきた社外取締役であるが、日本能率協会総合研究所が2020年9月に実施した調査1では、以下のとおり、社外取締役がいることによるメリットを強く感じていることが見て取れる。

① 社外取締役に対する満足度はかなり高い。【図表-1】
② 社外取締役からは有益な助言が得られている。【図表-2】
③ 社外取締役がいることにより、経営の監督機能は高まっている。【図表-3】
④ 社外取締役は、自社のガバナンスに対して強くコミットしてくれている。【図表-4】

【図表-1】社外取締役に対する満足度
(今回=2020年9月調査、前回=2018年12月調査)

1 本コラムで掲載の図表の出典:日本能率協会総合研究所 「取締役会及び取締役会事務局の実態に関する調査2020」
有効回答数300社(調査対象:東証1部・2部上場2610社の取締役会事務局)

【図表-2】社外取締役から、取締役会の機能強化に資する有益な助言を得られているか(n=297)

【図表-3】社外取締役がいることにより、経営の監督機能が高まっているか(n=299)

【図表-4】社外取締役は、自社のガバナンスに対して強くコミットしているか(n=299)

2.社外取締役の活用を再考する

社外取締役は、取締役会への参加だけでなく、指名・報酬委員会の委員(場合によっては委員長)になるケースも多く見られ、その役割はたしかに大きくなっており、あれもこれもお願いするのは申し訳ないという考え方もあるだろう。

しかし、今般改訂されたCGコードにより、社外取締役比率が「3分の1」あるいは「過半数」と規定されるようになり、取締役会における社外取締役の議決権の割合が高くなる。つまり、社外取締役が意思決定に関与する重みが増してくることである。このような状況を考えたとき、会社側としても、取締役会において“ベストな意思決定”がなされるよう、特に社外取締役に対しては、経営理念や事業方針等を含めた自社に対するより深い理解と同時に、株主からの期待を自社に適切にフィードバックしてもらえるよう促すことが求められる。

例えば、改訂CGコードでは、「株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項を踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むことを基本とすべきである(補充原則5-1①)」と規定されているが、弊社調査では、社外取締役が対応しているのは1割程度となっている。(【図表-5】参照)

【図表-5】社外取締役は株主や機関投資家との対話に対応しているか(n=298)

以前に、実際に社外取締役として株主との対話に対応したことのある方から話を聞いたことがある。その趣旨は、「CEOやIR部門が対応する場合は、どうしても組織防衛的な対応になってしまうが、社外取締役の場合は、純粋に株主から付託された役割を果たすという観点で意見を聞くことができる。ただし、会社側のことをよく理解していなければならないし、株主からの意見を「どう聞くか」「どう取締役会へフィードバックするか」という点では、“社外取締役としての見識”が大きく問われる。社外取締役に就任する人は、この点を非常に重たい役割として認識しておく必要がある」というものだった。社外取締役の責任の重さを垣間見ることができる話である。

上記はほんの一例ではあるが、社外取締役が活躍する場はまだ十分にあり、どの社外取締役にどのような役割を担ってもらい、取締役会の活動への貢献を促すかについて、取締役会事務局としても再考する必要があると考えられる。

3.取締役会事務局としてできること

取締役会事務局は、あくまで取締役会を支える言わば黒子の存在である。社外取締役が持つパフォーマンスを発揮していただけるよう、事務局としては日頃から地道な取り組みを進めておく必要がある。一見すると成果に対して遠回りのように見えるかもしれない取り組みも、結果としては、良い成果を生んでいくと考えられる。ここでは3点ほどご紹介したい。

(1) スキルの整理(各取締役の強みの確認)

改訂CGコードでは、スキルマトリクスの整理が求められている(補充原則 4-11①)。CGコードのあるなしにかかわらず、取締役会を多様な知識・経験・能力をもったメンバーで構成し、その英知を結集してベストな意思決定に導くという本質は変わらない。翻って現状を見ると、弊社調査によれば、社外取締役のスキルマトリクス(この質問では社外取締役だけに限定している)の整備状況は約2割にとどまっている。【図表-6】

【図表-6】社外取締役のスキルマトリクス(社外取締役を招へいするにあたり、どのような専門性を活用してほしいのかを整理した一覧表)の整理(n=296)

また、これに付随して改訂CGコードでは、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである(補充原則4-11①)」旨が規定されている。単に経営経験者を招へいすればよいというものではなく、「財務」に長けた方なのか、「グローバルビジネス」に長けた方なのか、あるいは近年よく見かける「DX」に長けた方なのかなど、当該経営経験者の“強み”を確認し、それが当社取締役会の求めるスキルに合致しているという形での整理が求められる。

こうした作業を実務的に担うのは取締役会事務局(企業によっては、人事部門に持たせる場合もある)となるため、取締役会の戦力分析という参謀としての能力が求められる。

(2) 社外取締役へのインプットの再強化

ある社外取締役から、「新型コロナの影響で、社外取締役としてのインプットが格段に減ってしまった」という話を聞いたことがある。通常であれば、工場見学など現地を見る機会があったり、取締役会後に昼食を兼ねた勉強会があったりしたものが、まったく無くなってしまったという。取締役会もリモート対応が普及し、取締役会外での“雑談”もしづらくなってきている。これまでは、ある意味、あまり意図せずとも、社外取締役へのインプットが行われていたが、コロナ禍→リモートという流れの中で、今一度、社外取締役へのインプットの再強化が求められている。

企業の中には、実効性評価において、こうした状況自体が問題であると認識し、「取締役間のコミュニケーションの質・量の維持・向上」を課題として取り組んでいる企業もある。

コロナ禍という時期だからこそ、社内取締役・社外取締役との間の情報格差をできるだけ少なくするための努力が必要であり、この点における取締役会事務局の果たす役割は大きい。

(3) 社外取締役との距離を縮める

上記(2)とも関連するが、取締役会事務局のメンバーも、社外取締役に大いに議論をぶつけてみるべきである。企業によっては、その組織風土から、なかなか声がかけにくいということも耳にするが、「取締役会をよくするのが我々の仕事である」と割り切って、ぜひ取り組んでいただきたい。

ある社外取締役からは、「取締役や監査役とだけ話しているだけでは、その企業のことを本当に理解できているのかわからないときがある。その点で、いろんな問題意識をぶつけてくれる事務局はありがたい」という話を聞いたことがある。そして、また別の社外取締役からは、「ここの会社の事務局は不器用でいろいろ言いたいことがあるけど、信頼はできる」と言う。ここまでくれば、事務局としても上出来で、社外取締役との距離感が縮まれば、事務局としても仕事がしやすくなる。

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