大手企業における取引先モニタリング(外部委託先管理)取組み状況について①
~取引先へのコンプライアンス/CSR調達に関する実態把握状況について~

2023.05.18

小阪 貴之

(株)日本能率協会総合研究所 経営・人材戦略研究部 主任研究員

東北大学大学院(修士)修了後、2013年4月に入社。
主に、コンプライアンス、ES、CSR、サプライチェーン監査をテーマとした企業のガバナンス領域に関する意識調査受託、プログラム開発に従事。また、サステナブル調達に関する戦略アドバイザリー支援、大手金融機関、セミナー会社からの要請を受け、ESG時代に対応したSCガバナンス、外部委託先管理に関する講演活動なども行う。内部監査士(IIAJ認定)、上級個人情報保護士。

1.ESG/SDGs時代に企業が求められる取引先(サプライヤー)マネジメント

今日のESG投資、SDGs、コーポレートガバナンス・コードへの対応をはじめとする社会的な要請により、大手企業に求められるガバナンス領域は拡大し続け、統合報告書に代表される社外への情報発信に対する公平性、公正性、透明性の担保も高まりをみせている。

弊社でも、コンプライアンス意識調査、取引先に対する公正取引/下請法遵守/人権尊重(人権デューデリジェンス)/BCPなどのコンプライアンス、CSR調達(サステナブル調達)を軸とした取引先意識調査(サプライチェーンサーベイ)などのガバナンスに関する支援を多数行っている。

そこで、当コラムでは、ガバナンス強化に従事あるいは、ご関心をお持ちの読者に向けて、今年3月に弊社が大手企業(従業員2000名以上)の経営企画部、資材・購買部に所属される部長職以上の幹部の皆様に向けて実施した「ガバナンス強化に関する外部委託先管理実態調査(以下、当調査)」の結果を踏まえて、主に自社の取引先(サプライヤー)に対する取組み状況をご紹介しつつ、私見を述べたい。

はじめに、今年3月に実施した当調査との参考比較として、2年前に弊社がJMAグループ会社のJMACと共同で実施した「ESG時代のサプライチェーンマネジメントに関する自主調査(以下、SCM自主調査)」の結果では下記図1の通り、調査対象先企業の6割強が定期/不定期の差こそあれ、自社の取引先に向けた取組みに関するモニタリングを実施している。

また、「従業員1000名を超える大手企業」では、約8割弱が何らかの手法で自社の取引先に対して、コンプライアンス、CSR調達に関する取組み実態の把握を行っているという調査結果が出た。(※図1にて「把握していない」割合を除く実施割合。2つまで選択可だがアンケート/ヒアリングともに定期/不定期のいずれか1つずつしか選択できないよう回答を制御)

【図1】取引先(サプライヤー)のコンプライアンスに関する取組みの把握状況について

(出典)「ESG時代のサプライチェーンマネジメントに関する自主調査」JMAC/JMAR共同自主調査(2021/7/19)

【図2】取引先(サプライヤー)のコンプライアンス等に関する取組みの把握状況について

次に、今年3月に実施した当調査の結果(上記の図2)をご覧いただきたい。大企業(従業員2000名以上)ということもあり、約9割弱(134社/155社)が何らかの手法(アンケート、ヒアリングまたは両方を併用)にてコンプライアンス、CSR調達などに関する取り組みの把握を行っていることがわかる。(「把握していない(13.5%)」を差し引いた全体割合。※「把握していない」は他選択肢を選べない。)

参考比較となるが、2年前に実施した前述のSCM自主調査における大企業(1000名超)との比較においても、1割弱ほど実施割合が向上している結果となっている。(「把握していない」割合の差分)

また、当調査では、製造業が非製造業と比べて、アンケート、ヒアリングいずれの実施割合も高い結果となった。この傾向は、SCM自主調査の業種別の傾向とも一致する結果であり、製造業が非製造業に比べて自社の取引先(サプライヤー)に対して、取り組み状況の把握に力を入れている

あわせて、当調査では大企業においては、定期的にアンケート調査を実施している割合が5割程度みられ、製造業では6割に達していることから、アンケート調査の活用が主流な把握手法であるといえる。なお、不定期でアンケート調査を行っている割合も2割弱存在し、取引先の取り組みを把握している企業の7割程度(定期実施+不定期実施)がアンケートを活用している。

ヒアリングに関しても定期実施が3割程度、不定期実施と合わせて、取り組みを把握している企業の5割程度が用いている。(資本金別は偏りがあるため、全てにおいて参考表示に留める)

弊社にて、取引先意識調査を担当している私見となるが、多くの企業では、ティア1あるいはティア2に該当する取引先(弊社がご支援しているクライアント様のボリュームゾーンとしては数百社程度から1000社前後)に向けて、定量的なアンケート調査を実施し、その後、調査結果や自社の経営において重要だと思われる取引先に向けて、ヒアリング(昨今はコロナの影響でWEB会議アプリを活用したリモート手法を導入する企業も散見)を行っている企業が多数を占めていると解する。

2.取引先(サプライヤー)への調査実施における外部専門機関の活用実態について

次に、今年3月に実施した当調査の結果(下記の図3)をご覧いただきたい。こちらは、先のQ1にて「把握してない」(21社/155社)を除く134社に向けて、取引先の取り組み状況の把握に関して、外部委託(調査会社/コンサル/監査法人等)を活用しているか、自社の従業員あるいは担当部署のみで対応しているかを確認した結果である。

ご覧の通り、4割程度は外部委託を行い、調査を実施していることが分かる。また、製造、非製造業別では、非製造業の方が製造業に比べて、「外部委託活用」が1割程度高い、5割弱となっている。この結果から、非製造業においては、製造業よりも取引先へのモニタリング実施割合こそ低いものの、モニタリングを実施している企業においては、製造業よりも外部委託を活用して取り組み状況を把握している様子がうかがえる。

一方で、製造業は、6割が自社内のみで取引先の取り組み状況の把握を行っているが、僅かではあるが、(アンケート/ヒアリング)どちらか一方のみ外注化して把握している割合が確認でき、4割弱が外注化している様子がうかがえる。

【図3】取引先(サプライヤー)へのアンケート/ヒアリングに関する外部専門機関の活用状況

(出典)(株)日本能率協会総合研究所『ガバナンス強化に関する外部委託先管理実態調査(2023/4/25)』

3.取引先(サプライヤー)へコンプライアンス等のモニタリング未実施の理由について

取引先へのモニタリング状況に関して、①把握状況、➁外注委託割合などの実態をみてきたが、コンプライアンス(公正取引実践、下請法遵守や人権デューデリジェンス等)、CSR調達テーマに関して、取引先へのモニタリング(外部委託先管理)について、実施していないと回答した企業(21社/155社)の理由をみていきたい。

【図4】取引先へコンプライアンス等の取り組み状況の把握活動を行っていない理由

(出典)(株)日本能率協会総合研究所『ガバナンス強化に関する外部委託先管理実態調査(2023/4/25)』

上記の図4をみると、大企業においても“取引先が限定的なため、アンケートやヒアリングを行って、現状を把握する必要性を感じていない”という要因と“サプライヤーの協力が得られない”という2大要因がうかがえる。この傾向は、製造、非製造業ともに大きな変化はみられない。

4.当コラムのまとめ

当コラムは、今回の①と次回➁の2部構成となっているが前述までの調査結果を踏まえた所感を述べたい。大企業におけるサプライヤー(取引先)へのコンプライアンス、CSR調達に関する取組み状況の把握については、全体の9割程度(134社/155社)の企業が何らかの方法で把握しており、うち4割程度が外部専門機関を活用して、客観的、専門性のある分析と改善に向けた取組みを行っているということが当調査により確認できた。

弊社も取引先意識調査(サプライチェーンサーベイ)をご支援しており、主なお問い合わせ内容としては、下記の2つのものが多いが、共通しているご要望としては、当該調査内容から「忖度のない本音のご意見」、「調査結果の把握と改善、向上活動に繋げたい」という観点から、自社の担当部署ではなく、弊社のような第三者的な専門機関へ委託する点が挙げられる。

【弊社へお問い合わせいただく主な取引先意識調査(サプライチェーンサーベイ)の調査視点】

  1. 自社の取引先に対して、自社担当者が下請法などに反した言動や取引を行っていないか?というコンプライアンス的な側面から「公正取引実践」を軸としたアンケート調査
  2. 自社が定めるCSR調達(サステナブル調達)に関して、取引先(1次、2次サプライヤー)へ取り組み状況を定点的にアンケート調査で把握し、一部の取引先様へアンケート調査を踏まえたヒアリング活動を行うという調査

一方で、上記Q1-2でみられた取引先への把握活動を行っていない主な2大要因についてもガバナンス領域に従事している経験を基に見解を述べたい。まず、「取引先が限定的なため、アンケートやヒアリングを行って、現状を把握する必要性を感じていない」という要因については、ESGやコーポレートガバナンスコードへの理解、対応の遅れという観点のみならず、企業経営におけるリスクマネジメントへの対策、コンプライアンス意識において、憂慮すべき状況であると解する。

なぜなら、リスクの大きさは必ずしも“取引先の数や限定的か否かのみに比例するとは限らない”からである。具体的には、「取引先が限定的」という状況は、長年の取引慣例によって、①書面を交わさない口頭や慣習でのやり取り、➁担当者間のなれ合いによる相互チェックの形骸化、③下請法などの法令、コンプライアンスに反する言動などの不祥事リスクが懸念される。実際に、大手企業における取引先が絡む不祥事の報道は後を絶たない。

また、前述の不祥事発生リスクのみならず、「取引先が限定的」ゆえに、貴社の取引先自身が経営的な要因あるいは貴社との取引実態(価格、仕様を含む要求事項)など何らかの要因により、貴社から離脱してしまった場合、安定供給という観点で経営リスクに直結する状況ともいえる。それにもかかわらず、取引先の状況を把握する取組みを怠ることは、我々に置き換えると定期的な健康診断を怠り、進行する健康リスクに気づかず深刻な状況に陥る状況と酷似しており、ハイリスクな状況といえる。

次に、「サプライヤーの協力が得られないから」という要因については、弊社がご支援する際に下記のような工夫と取組みを行うことで、約9割前後の回答率を達成しているため一部手法を紹介する。

まず、ご協力が得られない要因として考えられる“心理的安全性の確保”という観点において、アンケート対象先である各取引先さまへ「当調査は(発注企業からの)取り調べではなく、今後の取引先様との共存共栄に向けた(発注企業への)ご要望、取り組み施策に活用する」、「率直にご回答いただくことが、(自社の取引に)決してネガティブに働かない」、「個別企業の特定、個人特定による不利益を防止する観点で個人特定分析は原則行わない」といった表明をアンケート依頼時に弊社署名あるいはクライアント企業様の担当部署、必要に応じて担当役員様等の署名を用いる。

次に、技術的な側面においても、クライアント様(取引先企業さまからみた発注企業)へ当該取引先企業ごとの個別回答データは原則共有せず、あくまで、各取引先企業が回答された属性情報(取引内容、資本金や従業員規模などを回答企業が特定されない選択肢を選択し、回答)を集計する。

その属性別の回答結果や全体分析結果を弊社が有するベンチマーク指標との比較を交えて、取引先さまとの関係性向上や外部委託先管理に関する取組み改善策を提案する。

すなわち、個社ごとの回答結果をそのまま用いらない分析手法を行っており、発注企業への苦言や改善要望を一部の取引先が仮に行ったとしても、回答企業や担当者が不利益を受けないように配慮し、その旨を調査依頼時にメール文面、調査票の表紙に明記するなどの周知活動を行っている。

もっとも、調査質問内容に関しても弊社では専門の研究員が設計から課題出しと取り組みの方向性まで幅広い分析とコンサルティング支援を行っており、弊社クライアント様、クライアント様のお取引先企業様、双方の調査を通したコミュニケーションを通した共存共栄に向けた支援を心掛けている。下記に関連する情報元URLを記載しているので、貴社の一助となれば幸甚である。

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