取締役会の実効性向上のマネジメント構築④
取締役会改善のロードマップ作成により実効性評価の意味を高める

2021.07.07

岡崎 裕

一般社団法人日本能率協会において、役員研修及び経営者候補の選抜研修などに長年携わる。研修で培った多くの企業役員とのつながりを活かし、実効性評価等の調査業務に従事。2018年より現職。

<ポイント>
  • 取締役会の実効性評価は定着し、取締役会の改善に役立っていると感じている一方で、実効性評価のマンネリ化も進行している。
  • マンネリ化低減の方策として、以下の2つが考えられる。
    ①何年かおきに外部機関の協力を得ることにより、実効性評価を固定的なものとしない。
    ②取締役会改善のロードマップに基づいて、実効性評価のPDCAサイクルを回す。

1.実効性評価は取締役会の改善に役立つ一方で、マンネリ化が進行

日本能率協会総合研究所が 2020年9 に実施した調査1では、取締役会の実効性評価は約9割の企業で実施され、実施している企業のうち約9割が「取締役会の改善に役立っている」と感じている。【図表-1・2】

【図表-1】実効性評価の実施状況
(今回=2020年9月調査、前回=2018年12月調査)

1 本コラムで掲載の図表の出典:日本能率協会総合研究所 「取締役会及び取締役会事務局の実態に関する調査2020」
有効回答数300社(調査対象:東証1部・2部上場2610社の取締役会事務局)

【図表-2】実効性評価は取締役会の改善に役立つか(n=251)

しかし、その一方で、「実効性評価において課題となっていること」を問うたところ、「同じ課題が抽出され、『マンネリ化』していること」という回答が圧倒的に多く、2018年12月に実施した同内容の調査と比較しても、さらに選択率が高まっている。【図表-3】 マンネリ化がさらに根深い問題となり、実効性評価自体の改善が迫られている様子がうかがえる。

【図表-3】 実効性評価において課題となっていること
(今回=2020年9月調査、前回=2018年12月調査)

【注】図表-3における正式な選択肢の文言は、以下のとおりである。

1.「マンネリ化」への対応策

取締役会事務局としては、このマンネリ化の状況を放置しておく訳にはいかない。いずれ取締役会から「どうにかせよ」という指示が飛んでくることになる。マンネリ化に対する特効薬が必ずしもあるとは言えないが、弊社の調査の中から、そのヒントとなるものが2点抽出できたので紹介したい。

(1) 何年かおきに外部機関を活用する

【図表-4】をご覧いただきたい。これは、実効性評価を実施している企業の実施形態別に、前項の【図表-3】で「マンネリ化」を選択した企業の割合(企業数)を表したものである。この表を見ると、実効性評価を「ずっと自前」で実施していてもマンネリ化するが、「ずっと外部機関」を活用していてもマンネリ化しやすいという結果となっている。外部機関を活用することがマンネリ化の打破に直結する解決策とは必ずしもならない。

一方、「何年かおきに外部の協力を得て」実施した場合は、マンネリ化の割合が4割を下回り、「ずっと自前」や「ずっと外部」と比べるとその割合が低くなっている。同じことを繰り返し、実効性評価を1年に1回の“儀式”にしてしまうことが、マンネリ化を生む一要因と見ることができそうである。

【図表-4】実施形態別の回答社数及びマンネリ化を選択した割合

(2) ロードマップに基づいて、改善のPDCAサイクルを回す

【図表-5】を見ると、実効性評価の結果を受けて、取締役会改善のためのロードマップを作成している企業は4分の1程度とまだ少数派であり、「現時点では作成する予定はない」が半数近くを占めている。

【図表-5】実効性評価を受けて、取締役会改善のためのロードマップを作成しているか(n=255)

【図表-6】は、【図表-4】において、「すでに作成している(25.1%=64社)」と「現時点では作成予定はない(47.1%=120社)」と回答した企業について、【図表-3】の「マンネリ化」を選択した割合を示している。これを見ると、ロードマップの作成予定がない企業の方がマンネリ化を選択する率が高いことがわかる。

取締役会改善の道筋をつけるからこそ、実効性評価の中で何を検証しなければならないかが明確になるという論理なのだろう。検証しなければならないことが曖昧なまま、さきほども触れたように、実効性評価が1年に1回の“儀式”と化してしまうと、マンネリ化は避けられない。

【図表-6】 取締役会改善のロードマップ作成状況別の回答社数及びマンネリ化を選択した割合

今般のコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」と表記)の再改訂では、実効性評価(補充原則 4-11③)に関する文言に変更はなかったものの、コード全体の趣旨に照らすと、例えば、「当社の取締役会では、中長期の企業価値向上とともに、サステナビリティに関する議論ができているか」あるいは「スキルマトリクスの整理にあたり、多様性を踏まえてそれぞれの取締役が持つ強みを確認できているか」というような形で、各社の実効性評価において確認すべき項目に影響を与える部分も出てくると想定される。

特に、実効性評価に対してマンネリ化を感じている企業の取締役会事務局にとっては、今回のCGコード改訂を追い風に、様々な改善のくさびを打ち込み、積年の課題を解決していく絶好のチャンスと捉える必要がある。

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