コロナ禍における調査項目の変化
~テレワークの効果・課題の把握~

2022.02.24

前島 裕美

(株)日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主任研究員
約20年にわたり、従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)、コンプライアンス調査、ダイバーシティ調査など、主に組織風土をテーマとした意識調査の受託に従事。経営倫理士。

1.コロナ禍が調査設計に与えた影響

 2020年度に日本能率協会総合研究所が支援した各企業の従業員向け意識調査では、従業員満足度調査(ES調査)やコンプライアンス意識調査といったテーマを問わず、テレワークに関する設問を追加した事例が多かった。特徴としては、初めて緊急事態宣言が発令され、半ば強制的にテレワークという働き方を導入した(せざるを得なかった)企業では、「あなたはテレワーク制度の対象者か」「テレワークで働いたことがあるか」といった、そもそも自社社員のどの程度がテレワーク制度の対象者か、テレワークの利用率はどの程度か、という状況を把握するための質問を設定する傾向が見られた。あるいは、テレワークという働き方を今後の選択肢として検討するための材料として、「コロナ後も、テレワークで働きたいか」という質問を設定するケースも散見された。

 テレワークという働き方は、緊急事態宣言下における非常時対応ではなく、もはや通常の働き方の選択肢として定着したといっても過言ではない。2021年度は、上記の2020年度のようにテレワーク制度の利用状況や今後の利用意向を確認する設問ではなく、テレワークにおける効果や課題を確認する目的の設問が増えている。

 本稿では、2020年度から約2年間の支援実績の中から、上述のテレワークの効果や課題を確認する目的で各企業が設定した設問設計を整理・要約し、概要を紹介する。

2.意識調査で新しく導入された設問

 従業員向けの意識調査では、択一式の設問が基本的な設計となることが多い。択一式とは、複数の選択肢の中から、1つだけ選択するものである。従業員向けの意識調査においては、一つの設問文に対し、肯定的な選択肢から否定的な選択肢までを並べ、自分の気持ちに最も近いものを選択する設計が基本となる。最もシンプルな例は、「はい」「いいえ」の2択であるが、弊社の場合は5段階評価方式を多くの企業で採用している。

 この択一式の設問設計で、テレワークの効果や課題を確認した設問は、【図表1】のようなものがあり、大きく分けて「①生産性」「②コミュニケーション」「③セキュリティ」「④システム環境」の4つである。

「①生産性」は、企業によっては「効率性」という表現にしていることもある。ここでいう生産性とは、直接的には労働生産性を指す。労働生産性は、企業の財務分析上の定義はあるものの、それを従業員が認識したうえで回答することは基本的に想定していない。かなり抽象度が高い設問であることを許容したうえで、「(自己判断として)効率的に仕事ができているか」という趣旨で確認していることが多い。

「②コミュニケーション」は、ここでは業務上必要なコミュニケーション、いわゆる「報・連・相」の状況を確認する目的の設問が多く見られている。2020年度は、職場内でのコミュニケーション状況を問う内容が多かったものの、2021年度は職場外(他職場)とのコミュニケーションについて確認したい意向を持つ企業が増えてきた点が特徴として挙げられる。

「③セキュリティ」「④システム環境」は、各社ともテレワーク制度を導入する前にシステム部門が中心となり整備や研修を進めてきたことと想定されるが、セキュリティ上のリスクや従業員側の受け止め方、あるいはシステム面では特に追加対策の要望が多い事業等を洗い出す目的で設定することが多い状況である。

【図表1】

3.今後の設問設計と企業に求められること

 本稿執筆時点では、全国的にまん延防止等重点措置が実施中であり、3回目のワクチン接種が進みつつある段階である。企業としては、経済活動との両立へ向けた「ウィズコロナ」の働き方を依然として模索している段階であり、一部の企業では、テレワーク推進の運営を見直す動きもみられる。

 なお、2020年度の支援実績を整理すると「労務管理」や「メンタルヘルス」に関する新たな設問はあまりみられなかったが、テレワークで直接的に管理監督・観察ができないゆえ、マネジメント上の問題として浮き彫りになりつつあるテーマである。今後、上記の4つのテーマに加えて、調査項目として追加の検討が必要であると言える。

 先述の通り、テレワークという働き方は、通常の働き方の選択肢として定着したといっても過言ではない。ただし、テレワークという働き方が「万能」ではないことも事実である。各企業の経営計画や事業戦略、事業特性に応じて、どのような働き方が、自社にとって最も効率的であるかを今後検討していき、社員に明確な方向性を示していくことが必要である。

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