2021.06.16
一般社団法人日本能率協会において、役員研修及び経営者候補の選抜研修などに長年携わる。研修で培った多くの企業役員とのつながりを活かし、実効性評価等の調査業務に従事。2018年より現職。
このほど、コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」と表記)の再改訂版が確定した。CGコードは、取締役会による経営の監督機能向上という動きを後押しし、取締役会の果たす役割に注目が集まるきっかけを作った。社外取締役を中心に、取締役会において厳しい指摘をするという話もよく聞くようになり、取締役会が実質的な議論の場として機能していることがうかがえる。
日本能率協会総合研究所が2020年9月に実施した調査1 においても、ガバナンス向上のために必要なこととして最も多かったのは、「取締役会における審議を活性化させること 【図表-1】」となっている。
【図表-1】ガバナンス向上のために必要なこと(n=289)
(*選択肢の中から1位~3位の順位付けにより回答。本グラフは1位の選択率順。)
1 本コラムで掲載の図表の出典:日本能率協会総合研究所 「取締役会及び取締役会事務局の実態に関する調査2020」
有効回答数300社(調査対象:東証1部・2部上場2610社の取締役会事務局)
そして実際、同調査結果では、「以前(2-3年前)と比べて、取締役会では十分に時間をかけて議論が尽くされるようになったか」という問いに対しては、約半数の企業が「以前に比べて、議論が尽くされるようになっている 【図表-2】」と回答し、「以前(2-3年前)と比べて、取締役会の議論の質が向上しているか」という問いに対しても、8割を超える企業が「議論の質が向上している 【図表-3】」と回答していることから、取締役会事務局の立場から見ても、一定の手応えを感じている様子がうかがえる。
【図表-2】以前(2-3年前)と比べて、取締役会では十分に時間をかけて議論が尽くされるようになったか(n=299)
【図表-3】以前(2-3年前)と比べて、取締役会の議論の質が向上しているか(n=300)
これまでの取締役会関連の改善といえば、実効性評価の結果を受けて、資料の配布時期を早めたり、資料を簡潔に作成したりするなど、いわば外形的な改善が主だった内容となっている。(【図表-4】参照)
しかし、取締役会が実質的な議論の場となるためのポイントは、議題設定に象徴的に表れる。弊社の調査結果では、議題設定に関しては、「事務局が素案を作成し、議長に確認してもらう」という方法をとっている企業が6割超で圧倒的に多くなっている。( 【図表-5】参照) 取締役会事務局がどれだけ考え抜かれた素案を提示できるかが、取締役会の質を左右すると言っても過言ではない。その意味で、取締役会事務局の果たす役割は非常に大きい。
【図表-4】実効性評価の結果、取締役会の運営上で改善したこと(複数回答可)
(今回=2020年9月調査、前回=2018年12月調査)
【【図表-5】 取締役会の議題設定の方法(n=300)
議題設定は、単に議題を並べればよいというものではなく、きわめて戦略的な仕事である。経営会議で議論されている内容を注視しながら、各原議部門からあがってくる議案を想定しつつ、「何を・いつ・どのような流れで議論してもらうとより効率的かつ効果的か(会社のためになるのか)」を取締役目線で考え、取締役会で決断しやすいストーリーに仕立てる“編集能力”が求められる。もう一歩踏み込んで言えば、「取締役と同じ目線で議論できるだけの力量を備える」ことが必要である。
そのためには、事務局は、各取締役とコミュニケーションをとり、それぞれの取締役の関心事(何を考えているか)を把握することが重要であると考える。議題設定にあたっては、そうした日頃から見聞きしていたことを適切に反映することが求められる。
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