大震災による従業員のマインドの変化
~改めてコロナ禍において振り返る~

2022.02.18

馬場 裕子

株式会社日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 ダイバーシティ推進室長 主幹研究員 /一般社団法人メンタルヘルス研究所 顧問

20年以上にわたり、企業の組織・人材戦略の支援、及び、エンゲージメント(従業員満足度)診断を中心とした組織課題の把握とKPI作成、施策提案に従事。
また、ダイバーシティ推進やストレスマネジメントに関する従業員意識調査や、リーダーのコミュニケーションスキル向上のための部下アンケートを使ったコーチング、メンター制度導入支援のサービスをなどを開発し、民間企業を中心に展開する。
経営学修士(MBA)、GCS認定コーチ、ポジティブ心理学プラクティショナー。

2011年の東日本大震災は、人々の心に大きなダメージを与えました。私たちは、日頃、社員の意識を調査している会社ですから、震災の影響が果たして、どのようにデータに現れてくるのか、非常に関心の高いところでした。

震災後、被災地の復旧・復興やその支援で忙しかった会社が多かったと思います。
しかしながら、震災を理由に組織の健康診断を中止にするケースはほとんどありませんでした。

では、以前と比べてデータ上の変化は見られたでしょうか。
調査結果の経年変化は、震災などの環境変化が原因であると結論づけるのは困難です。
しかしながら、震災の影響で日本経済がますます低迷し、社員の将来不安が増大しているように見受けられました。

ある食品メーカーでは、「失敗を恐れない雰囲気」「変革が実感できる」といった会社の風土に関する項目で前回よりも低下し、保守的な風土に逆戻りする傾向が見られました。市場の縮小への不安が増大したことに加えて、震災をきっかけに組織の連携の悪さ・コミュニケーションの不十分さを実感したようです。

「震災時に情報の伝達の悪さを感じた」
「現場に情報が下りてこない」
「意思決定が遅い」

など、震災を経験して社員が感じた不満です。
ある意味、政治に対する不信と似ていますね。

その一方で、

「(被災した事務所の)片付けを一緒にして、連帯感が生まれた」
「グループ社や他部門とのコミュニケーションが増えた」

といった、前向きな意見も見られました。

東日本大震災には、大きなインパクトがありましたから、社員が会社に不安をもつのも、当然かもしれません。しかしながら、このような状況でも、社員のやりがい・達成感が失われていない会社は、「強い会社」ともいえるでしょう。

大震災・リーマンショック・そして今回のコロナ禍・・・大きな環境の変化があっても、ゆるがない会社。
そのような会社に共通しているのは、経営トップの社員に対する「安心」を与えるメッセージです。

ある機械メーカーでは、ITバブル崩壊で需要が落ち込み、赤字に転落。そんな時期に「社員満足度調査」の担当者は、「今年はスコアが落ちても仕方ないですね」と悪い結果を予想していました。しかし、業績悪化に対して、経営トップがいち早く前向きなメッセージを社員に発信していたこともあり、スコアが落ち込むことはありませんでした。

社員が安心する経営トップからのメッセージ。
その暗示で社員が奮起し、良い結果が生まれるとしたら、手立てとしては悪くありません。子育てでも部下育成でも、「ポジティブメッセージ」が脳によい刺激を与えるのです。

コロナ禍となってから三度目の春が来ます。今後、コロナ禍が企業に与えた影響についても情報を発信していく予定です。

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