
2025.11.12

近年、日本だけでなく世界において人的資本を重視した経営を行うことが求められています。
そこで今回は、25年以上にわたり企業の人的資本状況、及び人的リスクを可視化する手段であるエンゲージメントサーベイを提供してきたJMARが、人的資本の意味や人的資本経営の概要、そして人的資本が注目されている背景についてわかりやすく解説していきます。
人的資本とは何か、改めて確認しておきたいという方や、自社の人的資本の価値を向上させる方法・取り組み方の具体例を知りたいという企業のご担当者様は、ぜひ参考としてご覧ください。
それでは早速、人的資本と人的資本経営の意味・概要についてわかりやすく説明していきます。
人的資本(Human Capital)とは、自社の人材、そして一人ひとりの人材がもともと持っている能力やスキルの他、日々の業務や学習等によって得た知識、技術、ノウハウなどをモノ・カネに並ぶ企業にとっての資本の一つだと捉える経済学用語です。
例えば、営業担当の社員が持つ営業力やコミュニケーション能力をはじめ、社員が業務の中で身に着けた機器の操作技術、企画の考え方、プレゼンの仕方なども人的資本に該当します。
そして人的資本経営とは、自社にとって大切な資本の一つである人材、及び各個人が持つ能力やスキルを最大限に引き出し、高めていくことを通して、結果として企業としての成長や発展、企業価値の向上を叶えようという経営手法のことです。
人的資本経営の特徴は、経営戦略に合わせた人材戦略を立てて、両者を連動させた施策を実行していくところにあります。経営戦略で設定した目標の達成に向けて、コストをかけて計画的に人材の育成や採用を行い、企業として経済的利益を得ること、成長することを目指していきます。
【参考】
人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
人的資源(Human Resource)とは、人材を企業が成功や成長をするために活用、または消費する資源と捉える考え方・経済学用語のことです。
人的資本では、人材及び人材が持つ能力は企業として育てるべきもの、投資対象やビジネスパートナーに近い存在として捉えますが、人的資源では投資して育てるというよりも、今あるものを効率よく活用することに重きを置いて管理するべきもの、と定義されるのが一般的です。
似た印象のある人的資本と人的資源という言葉ですが、この2つはそれぞれ異なる意味を持つ経済学用語ですので、混同してしまわないようにご注意ください。

人的資本、及び人的資本経営の概要がわかったら、次は、企業や市場において人的資本が重視されるようになってきた主な理由、背景について、わかりやすく紹介していきます。
近年、人的資本や人的資本を重視した経営が注目されている理由は、主に以下の4つです。
【企業経営の分野で人的資本が注目を集めるようになった理由】
2018年に国際標準化機構(ISO)が「人的資本開示ガイドラインISO30414」を、2023年に金融庁が「有価証券報告書の人的資本に関する情報開示の義務化」を発表したことで、日本でも上場企業など、一定以上の規模の会社に対して人的資本状況に関する情報開示が義務化されました。
【参考】
有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和5年度):金融庁
ISO 30414:2018 – Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting
近年になってから人的資本が注目されるようになった理由の一つとしては、開示する必要が出てきたことで自社の人的資本状況に目を向けたり、調査する企業が増えたことが挙げられるでしょう。
先述したように、一定以上の規模を持つ企業に人的資本情報の開示が求められるようになった背景としては、人的資本などの非財務情報や、ESG投資への投資家の関心の高まりがあります。
ESG投資とは、企業の財務情報に加えて環境問題への配慮やダイバーシティ、インクルージョンの推進状況の他、ガバナンスなど企業の「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」への態度や考え方などもチェックした上で行う投資のことです。
人的資本は、ESG投資において社会に関する項目に位置づけられるため、人的資本情報として公開された人材への投資状況(人材育成にかけている費用額等)や、従業員エンゲージメントのスコアなどは、投資先を選ぶ上での重要な判断基準の一つとなります。
また、市場において企業の競争力の源となるブランド力やポジティブな企業イメージといった無形資産を生み出しているのは、そこで働く人たちのアイデアや技術力、つまり人的資本です。
そのため、近年では人的資本状況が良好なほど投資家や株主から評価され、投資されやすい傾向にあります。投資による資金調達を考える際にも、自社の人的資本情報が大きな意味を持つということを理解しておくことが大切です。
人的資本のマネジメントを疎かにすると、企業の魅力や競争力が失われる可能性が高くなるだけでなく、人事面における以下のようなリスクも顕在化しやすくなります。
このように健全性が失われた組織では、従業員をはじめとするステークホルダーと信頼関係を維持することも、投資家や株主から評価を受けて投資対象となることも難しくなるでしょう。
自社の人的資本状況について正しく把握・管理することは、企業としてガバナンスを強化し、適切にリスクマネジメントをしていく上でも欠かせない要素になってきているのです。
近年、若年層を中心に仕事や働き方への価値観の多様化が進んでおり、従来のような給与の高さや昇進スピード、キャリアの構築を重視した画一的な働き方だけでなく、成長機会の有無や、自身がやりたい・望むキャリアを積むこと、働きがいを求めて入社する人も増えてきています。
そのため、いかに人的資本の施策に注力し、社員の考えや働き方の希望に寄り添った人事や評価の制度を構築できるかが、採用や人材定着の成否を分けるということも少なくありません。
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続いて、企業が人的資本の価値を向上させることによるメリットについて、確認していきましょう。
企業が自社の人的資本状況を向上させることにより、期待できるメリットをわかりやすくまとめると、以下の3つが挙げられます。
先述した通り、人的資本への注力は企業のリスクマネジメント、ガバナンスという意味でも非常に効果的です。
人的資本を重視し、コンプライアンスを徹底した健全な経営を続けていくことができれば、顧客や取引先、投資家といったステークホルダーからも「長期的に安定した関係を築ける」と評価されやすくなるため、事業を展開・拡大していく上で有利になると考えられます。
また、人事制度や評価制度の変化や、教育機会の増加といったことから従業員に人的資本重視の姿勢が伝わると、社員が「会社から大切にされている」と感じるようになり、会社に対する誇りや愛着、つながりを感じるようになります。
すると生産性や人材の定着率の向上、離職率の低下につながる他、そのような社風を魅力的に感じた優秀な人材を集めやすくなるため、採用コスト削減まで実現できるといったメリットも期待できるでしょう。

ここからは、企業が自社の人的資本価値を高めるために、また人的資本経営を成功させるためにできることについて、取り組むべき順序も踏まえながら、わかりやすく説明していきます。
企業が人的資本価値を向上させるための方法、及び実行するべき順序は、以下の一覧の通りです。
企業が人的資本の価値向上を目指す上で、まず行うべきことは現状の把握です。はじめに従業員に対してエンゲージメントサーベイを実施し、自社の人的資本リスクを可視化してください。
現状が見えてきたら、後は理想的な状況と現状を定量的に比較し、状況を改善するためのKPI、そしてKPIを達成するための具体的な施策を考えていきます。達成を目指すべき目標と施策が定まったら、あとはPDCAサイクルを回して効果測定と修正を繰り返し、状況を改善しましょう。
【事例】
JMARのエンゲージメントサーベイ導入企業様のご紹介
最後に、自社の人的資本情報を開示する際のポイントについて、確認していきましょう。
人的資本情報の開示を効果的に行うポイントとしては、大きく以下の2つが挙げられます。
【人的資本情報を開示する際のポイント】
法律により、企業が人的資本情報として開示するべき情報の領域・項目はある程度決められていますが、その範囲内で「とにかく自社の情報を開示すれば良い」というわけではありません。
単にエンゲージメントスコアの総合点などを公表するのではなく、会社が今後目指す方向性や理想的な人材像にも触れ、これに合致した指標やスコアを開示することが求められます。
自社の経営戦略や成長ストーリーをベースに、一貫性と説得力が感じられる内容になるように、数値情報や指標を取捨選択して公表しましょう。
なお、JMARのエンゲージメントサーベイは高いカスタマイズ性を備えているため、会社として公開したい人的資本情報の項目に合わせた形での調査、結果のご活用をいただけます。
日本型の雇用に対応!JMARの「エンゲージメントサーベイ」の特徴とは?
人的資本情報の開示は、主に投資家に向けて行うものではありますが、人的資本に関する情報は企業にとって欠かせないステークホルダーである従業員に対しても提示する必要があります。
具体的な方法としては、社内報等を通じて従業員に人的資本情報を共有するのがおすすめです。
ただし、投資家向けに開示している人的資本情報が従業員の実感と大きく異なっていると、従業員の会社に対する信頼感を損なってしまう恐れがあります。
従業員に対して自社の人的資本情報を提示する際は、会社への信頼感を高めるために、エンゲージメントサーベイの結果や会社が今抱えている課題だけでなく、その課題を解決するための具体的な施策・改善策も一緒に明示することが大切になってきます。

人的資本開示が義務化された現代において、人事部門はもちろん、経営の観点においても従業員エンゲージメントを調査して可視化することの重要性が非常に高まってきていると言えます。
JMARでは、海外とは異なりメンバーシップ型の雇用を主流とする日本型の労働慣行を鑑みた「日本型の従業員エンゲージメント」を調査するエンゲージメントサーベイを提供しています。
《JMARのエンゲージメントサーベイ5つの特徴》
※日本語だけでなく、さまざまな言語を用いたグローバル調査にも対応しております。
また、人事・組織領域に精通した経験豊富な研究員が、エンゲージメントサーベイで得られた結果に洞察を加え、データから導き出された課題に対して実効性の高い施策を提言するところまで、しっかりと支援いたします。
エンゲージメント強化や人的資本経営に関する悩みを抱えていて、調査から結果の分析、具体的な施策の提案までしてくれるパートナーをお探しのご担当者様は、ぜひJMARまでお問合せください!
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