インタビュー
JMARの考えるエンゲージメントについて【2】(全3回)

「なぜ今、従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)が企業に必要なのか?」
「日本の雇用特性を踏まえて、エンゲージメントをどう考えるべきか?」

本日は、(株)日本能率協会総合研究所の組織・人材戦略部の部長・深代氏と主任研究員・前島氏にお話をおうかがいしたいと思います。

(インタビュアー:マーケティングサポート株式会社 西里


「日本型エンゲージメント」とは?

私の思いつくところで言うと、「他社に比べて給料がいい/悪い」、「残業時間が多いか/少ないか」、「会社の一体感があるか」など、少し表面的な部分が多いのが、一般的な従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)なのかなと思っていました。

深代2010年代から米国ギャラップ社の調査で日本はエンゲージメントが低いと指摘され、数値が独り歩きしているように感じています。日本企業がエンゲージメント調査を活用する場合は、雇用に関する制度・慣習をふまえた最適化が必要です。
欧米諸国は、ジョブ型雇用で専門的なスキルと知識、経験が求められるとともに、ジョブホッピングの慣習が前提となります。
一方で、日本の主に大企業は、メンバーシップ型で総合的なスキルと知識を身につけていく、長期雇用の慣習がいまだに主流をなしていますし、正規社員の整理解雇に関する規制が非正規社員に比べて強い状況です。
日本企業のエンゲージメントが低いという状況は、こうした雇用に関する制度・慣習の影響も考慮にいれて対策しなければなりません。

前島こうした中で弊社では、日本企業にとってのエンゲージメントを、“「会社への満足」と「仕事のやりがい」とを両立できる状態”と考えておりまして、それに基づいた質問項目を決めております。

世に言う従業員満足度調査というと、職場の物理的環境、福利厚生や給与の満足度が主な要素だと言われがちです。
弊社では、そうした満足度ではなく、「この会社で働いていてよかった」、「この経営層についていってよかった」、「顧客志向の誠実な会社でよかった」というような、会社経営にも重要となる従業員経験の要素をすべて包含した上で、会社満足度として考えています。
もうひとつ重要な点は「仕事のやりがい」、いわゆるワークエンゲージメントです。
なぜなら会社に満足しているだけでは、会社にぶら下がる従業員の方が出てしまいます。従業員自らが、目的意識をもって自律的にチャレンジでき、成長・貢献実感を得られる仕事ができる、こうした従業員経験の側面も経営上極めて重要です。
会社の中で、「会社への満足」と「仕事のやりがい」の両方の経験が得られている層を、弊社としては「エンゲージメント層(会社にも仕事にも満足している“真にエンゲージメントが高い人材”)」として捉えています。

エンゲージメントという言葉が昨今注目され、なんとなく「エンゲージメントサーベイ」という形で調査を提供している会社もあるようですが、弊社の場合は「日本型のエンゲージメント」という、日本の雇用慣習に合う内容を前提としたエンゲージメント度合いを分析しているのが、一つの特徴です。

「仕事のやりがい」と「会社満足度」を掛け算して分析していくと、もちろん「エンゲージメント層=真の満足層(会社にも仕事にも満足している層)」が一番多いのですが、次いで多く見られるのが「安住層」です。

先ほど話したように、「仕事のやりがい」がないけれど「会社には満足」して、会社を辞めずに何となくいる従業員が、日本型雇用では一定数発生しているので、「こういう従業員層を、エンゲージメント層に引き上げていくためにはどうしたらいいか」という点の分析も重要になります。

「エンゲージメント層=真の満足層(会社にも仕事にも満足している層)」を増やすには?

とても興味深い話ですね。
具体的な事例として、今まで調査した中で、印象に残る改善事例などありましたら教えていただきたいです。

前島これまで調査を実施してきて印象的だったのが、数万人規模のあるメーカーさんです。「安住層」の従業員がとても多かったのです。

数万人規模で、「この会社で働いているということ=自分の誇り」という感じ方になっていて、仕事内容は不満で面白くないものの、そのまま働いている従業員が多いという状態でした。

そうした層を、どのようにして「エンゲージメント層」に引き上げるかといったときに、特定の役職・年齢層のやりがいが低いということが、分析していくと分かってきたのです。

その特定層の中でも、「仕事のやりがいもあって会社に満足もしている」人と、「会社には満足しているけれども仕事にやりがいがない」人の差は、一体どういうところで出てくるのか。

例えばキャリアが見えている点か、きちんと上司がサポートしている点かなど、仮説を立てた上で分析を進めていくと、課題が浮き彫りになってきました。

ある会社で印象的だった分析結果ですが、今後管理職になるべき、会社の中核となるような、30代・40代の方たちが、会社に無関心だったり不満だったりするという特徴がありました。

アンケートによる定量的な分析結果を踏まえ、さらにナマの声を聴いて対策をうつ必要があるということで、対象の方たちを集めて、グループインタビューを行ったことがあります。

そうすると定量的な調査だけでは分からない背景や文脈情報が出てきました。そこでの知見を定量調査の数値と併せて「この数値結果の背景には、こうした事情があるようです」と経営層にご報告することによって、従業員がもっと働きやすくなるような、仕事のやりがいを感じられるような施策に反映していただいた、という経緯があります。

その後すぐに結果は変わりませんでしたが、何年か施策を継続していくうちに、「エンゲージメント層=真の満足層(会社にも仕事にも満足している層)」が増えていったという経緯は、とても印象に残っています。

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