迷走するフジテレビ記者会見 浮き彫りになった3つの問題点
~コンプライアンス体制の脆弱性に迫る~

2025.01.28

前島 裕美

(株)日本能率協会総合研究所 経営・人材戦略研究部 主任研究員
お茶の水女子大学大学院(修士)修了後、2002年4月に入社。
主に、企業のコンプライアンス・ガバナンス推進支援、エンゲージメント向上、ダイバーシティマネジメント等のテーマを得意とする。
昨今では企業の不祥事に関する調査・研究、コンプライアンスをテーマとした講演の他、日本経済新聞をはじめとした全国紙・インターネットニュースへの掲載、TV・ラジオ出演などの実績がある。経営倫理士。

 元タレントの中居正広氏の女性トラブルに関し、フジテレビ社員が関与しているとする報道をはじめとした一連の騒動を受け、フジテレビ(フジテレビジョン)が1月27日から28日未明にかけて10時間を超える会見を行った。冒頭の30分程を謝罪・今回の騒動の経緯の説明に充て、その後は時間無制限で質疑応答という異例の記者会見であったが、企業のコンプライアンス・ガバナンス体制について調査・支援している研究員の立場からすると、納得できる内容とは言い難い内容であった。本稿では、今回の記者会見を通して浮き彫りになったフジテレビの問題点と思われるポイントを3点に絞り、所感としてまとめた。なお、事件性の真偽等については、現段階で議論できる状況にないため、3月末に報告予定の第三者委員会の報告を待ちたい。

1.社内体制が脆弱、記者会見の目的すら不明確

 記者会見を視聴していたほとんどの方が抱いた所感であると思うが、2回目の開催にもかかわらず、記者会見の目的が非常に不明確であった。今回、冒頭にステークホルダー等への謝罪が行われたが、例えば謝罪が目的の会見であったとしたら、その点をはじめに明確に述べた上で、「①今、問題となっている点は○○です」「②そして、その真偽についてはこの場では回答できないので、第三者委員会の報告後に再度会見を開きます」「③現段階で、各方面のステークホルダーに当社としてできることは○○です」というフジテレビとしての意思表示、および現状と対応の説明を明確に行うべきであったのではないだろうか。今回、特に記者会見の目的が明示されていなかったため、質疑応答において各メディアの記者から事件性の真偽を問う質問が相次ぎ、怒号が飛び交うなど聞き難い部分もあった。恐らく、初回のクローズドな状態で開かれた記者会見が批判を浴び、早急に再度記者会見を設定しなければならない状況ではあったと思われる。しかし、報告内容・質疑応答のやり取りを見ていても明らかに準備不足と思われ、社内体制の脆弱さが目立つ結果となった。

2.フジテレビにおける、問題解決のゴールが設定できていない

 今回の会見だけの問題だけではないが、一連の騒動が大きくなっている要因として、「そもそも何が問題なのか」という点が整理されていないため、憶測が憶測を呼んで炎上している側面があると考えている。そして、問題が整理されていないことにより、フジテレビとしてのゴール(今後企業としてあるべき姿)が明確に示されていない点も、批判の対象となっているのではないかと推察している。フジテレビとして「中居氏と当該女性の関係性の真偽を明らかにする」「社員Aの関与の有無を明らかにする」事のみに留めるのか、もしくはこれを機に「フジテレビ内で社会通念から外れた行為が行われていないか徹底的に調査する」もしくは「社内のみならず、業界自体をクリーンにしていくベンチマーク企業を目指している」のか、フジテレビが何をゴールとし描いているのかが不明瞭なのである。そしてその点については、会見を視聴していても解決することはなく、むしろより分からない状態となっている。第三者委員会で真偽を明らかにすることとは別に、フジテレビとして今後何をゴールとするかは、会見の席で提示すべきであったのではないだろうか。
 また、ステークホルダー対策としても、会見内でフジテレビ側から「信頼を取り戻すために歯をくいしばらないといけない」という旨の発言があったが、具体的にどのような方法で信頼回復を行うのかという点が明確にはなっていなかった。この点については、CMを出稿しているクライアントが最も期待していた点ではないだろうか。さらに、「企業風土」に関する発言においても、「ちょっと昔の、自由だから何をやっても良いという悪い風土を直していく」という点がポイントではなく、「社内で明確なビジョン・行動指針を設定・共有し、その実現のために動いていく」という企業活動として基本的なPDCAサイクルが回っていない、つまり企業としての機能不全に陥っている点がそもそも問題であると考えるのである。

3.内部統制に対して認識不足の経営トップ、なおざりにされたコンプライアンス推進室

 前述の通り、フジテレビが企業としての機能不全に陥っている元凶としては、内部統制において注意義務が課せられているはずの経営トップ達が、組織の“違和感”に対して全く敏感でなかったという点が挙げられる。要するに会社のコンプライアンスについて、中心となるべき人物・組織が明確になっておらず、一連の騒動にまで発展しているのである。
 今回の記者会見で最も発言を疑った言葉が、企業のコンプライアンス・ガバナンス体制推進を支援している立場からすると、「コンプライアンス推進室に話をすると社内に広まってしまうので事案を共有しなかった」という旨の発言である。原則として、企業でコンプライアンスの問題が発生した場合、主軸となるのがコンプライアンスの担当部署であり、今回の事案も組織図上では代表取締役社長の直轄組織であるコンプライアンス推進室が主軸として対応し、立て直しを図るべき案件だからである。
 コンプライアンスの担当部署は、いかに社内のコンプライアンス意識を高めるかということに非常に苦心しながら社内の教育・啓発を行い、日々社内の相談を受け全国を調査で飛び回る重い責務を負っている主管部署である。こうした実情を知っている立場からすると、コンプライアンス推進室をなおざりにしたという事実、そして、コンプライアンス推進室を経営トップが牽引しつつ社内のコンプライアンスを正していく、という発言を聞くことができなかったことが、非常に残念でならない。

 以上、記者会見自体の問題点のみならず、会見を通して浮き彫りになった現在のフジテレビの問題を集約した。第三者委員会で事件性の真偽は問うこととしても、公共の電波を利用し正確な情報を提供する使命を持つテレビ局において、現在今後の会社の方針が決まっておらず(少なくとも記者会見では発表されず)、視聴者、株主、広告主、ひいては在籍する社員も含めステークホルダー不在のような経営を続けていくことは許されないと考えている。今後、新社長を筆頭にフジテレビとしての問題解決のゴールのみならず、企業としてのビジョン・行動指針を明確にし、社内のガバナンスを強化することによって、新生フジテレビの姿が見られることを期待してやまない。

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