2025.06.18
(株)日本能率協会総合研究所 経営・人材戦略研究部 研究員
人材紹介会社にて法人営業を経験後、同社へ入社。エンゲージメントサーベイやコンプライアンス意識調査等、各種調査業務に従事。
近年、多くの企業で社員向けサーベイ(アンケート調査)が盛んに行われています。法制化されているストレスチェックの他、エンゲージメント調査や従業員満足度調査、360度評価、コンプライアンス意識調査など、目的別のサーベイが増える一方で、社員側では「またアンケートか…」という調査疲れが広がりつつあります。調査疲れが前提としてある中で、繰り返しサーベイに回答しても改善の実感が得られない状況が続くと、調査に対して漠然とした諦めや不信感を抱く社員が出てくる状況、いわゆる調査不信になり兼ねません。
ちなみに2024年に弊社が実施した300人以上の企業に勤務する正社員1万人へのアンケートによると、会社が実施する従業員意識調査に正直に回答しているかという質問に対して、「どちらかといえば違う」と「まったく違う」の合計が1割以上でした。一部の従業員は会社に忖度した結果を回答していることが明らかになっています。(図1参照)
[図1]
出典:「働きがいに関するアンケート」(従業員300名以上の企業に勤務する会社員・会社役員対象)
アンケート結果概要はこちらから
調査不信の状態が進むと、企業にとって様々な悪影響が現れます。まず挙げられるのは、各種サーベイにおける回答率の低下です。サーベイの結果をふまえた改善の兆しを感じられない社員は、次第にサーベイへの回答を控えるようになり、回答率が低下していきます。回答率が低いと回答データの妥当性が失われ、せっかくサーベイを実施しても正確な現状把握が難しい状況になります。さらに、義務感だけで渋々回答する社員が増えてしまうと、表面的・形式的な回答ばかりとなり、社員の本音を聞くことができなくなってしまいます。
さらに深刻な問題は、社員のエンゲージメントの低下や会社・上司に対する信頼関係の悪化です。「会社に何を言ってもどうせ変わらない」といったサーベイに対する不信感が強まると、予算や時間をかけてサーベイを実施したにもかかわらず経営層との壁が生じる恐れがあります。その結果、会社への愛着や仕事へのモチベーションが低下する社員が増加し、職場におけるコミュニケーションの停滞、離職率の上昇といった問題に発展するリスクに繋がります。課題を解決するためにサーベイを実施したにもかかわらず、逆に課題を生み出してしまっては、まさに本末転倒と言えます。
設問が少なく手軽に導入しやすいパルスサーベイにおいても、定点観測に重点を置いている性質上、設問が固定化・形骸化しやすいという特徴があります。かつ、毎月実施後のフィードバックを現場に展開する必要があるため、事務局のみならず、実際に結果を受け止め、改善を行う現場の負担も大きくなります。事務局によりデータの活用方法が明確に示され、かつ、現場にデータを活用した職場改善のPDCAサイクルが定着していないと、便利なパルスサーベイも調査不信の予備軍となってしまう可能性があるのです。
①サーベイの目的・活用方法の明確化:まずは、事務局がサーベイを自分ごととして捉えていないと社員への協力を仰げません。サーベイの目的や必要なアウトプットを明確にしてからサーベイを実施することが必要不可欠と言えますが、現実には“とりあえず実施してみる“というケースも残念ながら少なくありません。
「サーベイの実施目的」「結果をどう活かすのか」というサーベイの基本構想を事務局が社員に対して丁寧に伝えることで、社員の理解と協力を得やすくなります。
②匿名性の担保:サーベイへの安心感を高めるには、匿名性の確保と回答内容の利用方法の説明が欠かせません。社員が率直に意見を述べられるよう、個人が特定されない仕組みを用意し、「回答内容は人事評価などには一切反映しない」ことを周知します。サーベイにおいて、社内のシステムを使用せず、外部のシステムを利用することも社員に対して匿名性を担保する一つの方法と言えます。実際、回答者の匿名が保証され安心できる環境では、回答率が向上し、自由記述欄にも多くの本音が書かれる傾向があります。
③結果の共有・フィードバック:サーベイの信頼性を左右する最重要ポイントは、サーベイ後の活用と言えます。結果はできるだけ速やかに社員と共有し、サーベイによって判明した課題とともに必ず具体的な対策の方向性も伝えましょう。結果の活用・取組については、会社・経営陣が主体となるものと、現場が主体となるものに分かれますが、双方において重要な点は、サーベイを一度きりで終わらせず、対話のきっかけとして継続的な結果のフィードバックとともに結果に対して施策を検討・推進し、次回サーベイで結果の効果測定を行うPDCAサイクルを回すことです。サーベイを通して社員と経営陣、社員と上司との対話を重ねていく中で、次第に経営陣や上司に対する社員の信頼関係も深まっていくのです。
信頼されるサーベイを実現するには、サーベイを実施する背景と目的の伝達、そして会社としてサーベイの結果を真摯に受け止め、組織改革に繋げようとする会社・経営陣・マネジメント層の真摯な姿勢と具体的な対策が欠かせません。明確な意図に沿って適切に実施されたサーベイは単なる現状の社員の声の把握に留まらず、社員との対話を深めエンゲージメントを高める強力な武器となります。社員のサーベイに対する信頼感を維持しつつ、得られた声を着実に会社・職場の改善へと反映させていくことで、組織全体の活力も向上していくのです。前述の通り、サーベイを実施することを目的としてしまうと、逆にサーベイを実施することによって、社員の信頼を失う結果になり兼ねません。とはいえ、サーベイの実施は工数がかかるため、全て社内にて完結させようとすると、マンパワー的に無理が生じることもあります。そういった場合、外部の専門機関を上手く利用することも検討しても良いかもしれません。問題意識の設問への落とし込み、webや調査用紙による調査運用、結果の集計、課題の抽出、経営陣への説明、現場へのフィードバック・・・部分的にでも外部機関を利用することで、“とりあえずサーベイを実施したものの何も活用できなかった”という事態を防ぐことが可能になります。「サーベイを始めてから会社や職場が良い方向に変わったね」と社員に言われるような、信頼され効果が実感できるサーベイの計画・実施を目指してみませんか。
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